メトロポリタンオペラ『マクベス』を見た。2008年のエイドリアン・ノーブル演出、ジェームズ・レヴァイン指揮によるプロダクションの映像である。2014年のMETライブビューイングの演出とは全く違うバージョンだ。
衣装などはけっこう現代のものに近く、セットなどもかなりモダンな感じのプロダクションである。終盤は雪が効果的に使われており、スコットランドの難民たちが寒々しい雪の中で悲しむ場面や、夢遊病にかかったマクベス夫人(マリア・グレギーナ)が雪の中で手を洗おうとする場面などは、雪の冷たさとある種の清らかさ(これがマクベス夫妻の血にまみれた悪事と対比される)がよく出ている。照明の使い方などもちょっと独特で、夢遊病の場面では上からぶら下がっている電灯をマクベス夫人が放って、電灯が振り子みたいに動くという変わった演出がある。
全体的にはマクベス夫人のパワフルさが特徴のプロダクションだと思う。この夢遊病の場面もそうだし、マクベス夫人が出てきて歌うところはどこも極めて迫力があり、演技もしっかりしていて場をさらってしまう。マクベス夫人がかなり強烈なので、マクベス(ジェリコ・ルチッチ)がちょっとかすむというか、妻の強さに引きずられていく男という印象を受けた。