星のめぐり~メトロポリタンオペラ『ロミオとジュリエット』(配信)

 メトロポリタンオペラ『ロミオとジュリエット』を配信で見た。ギイ・ヨーステン演出、プラシド・ドミンゴ指揮による2007年の上演で、再演らしい。2017年に日本で上映されたMETライブビューイングのバージョンとは全く違うものである。

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 全体的に星や空をイメージした美術が大変印象的で、星に呪われた恋人たちという印象を強く与える演出になっている。舞台の中心に三日月や星が描かれた丸い床があり、これが回転したり、上下して高低差が作れるようになっていて、星のめぐりを表現している。この青い星の床はパドヴァヴェローナからあまり遠くない)のスクロヴェーニ礼拝堂などをちょっと思わせるデザインで、イタリア北部の中世から近世に栄えた街の雰囲気を醸し出そうとしているようだ。冒頭では仮面舞踏会でそれこそ綺羅星のごとき人々が近世風の衣装を身につけて舞台を回って華やかに踊るが、ロミオ(ロベルト・アラーニャ)とジュリエット(アンナ・ネトレプコ)がバルコニーで会うロマンティックな場面では背景に夜空が出るし、昼の場面では太陽が出るようになっていて、時間の経過を星や空の動きで表すようにしている。

 主演の2人が大変素晴らしく、非常にロマンティックな作品に仕上がっている。以前ディアナ・ダムラウとヴィットーリオ・グリゴーロの組み合わせで見た時は、どちらかというとジュリエットのほうにユーモアのセンスがあり、とても陽性なカップルに見えたのだが、こちらのバージョンではロベルト・アラーニャのようにちょっとユーモアというか明るい雰囲気がある一方、アンナ・ネトレプコは可愛らしさの中に真面目な雰囲気のあるジュリエットで、この2人の表情豊かな愛の掛け合いはとてもロマンティックである。追放処分を受けたロミオとジュエリットが別れる前に一夜を一緒に過ごす場面では、星空の中にベッドが吊り下げられているという演出が採用されており、ここは若い2人の天にものぼるような恋の歓びを視覚効果と歌の両方で最大限に表現している。ここではベッドを上から撮影するという客席からは見られないアングルが用いられており、これは映像ならではだ。

 全体的にはロマンティックな上演だが、殺陣の場面の演出がかなり激しい。多数の人が絡まり合って乱闘みたいになる上、使われている武器も剣だけではなく鞭とかが出てきて、比較的複雑である。METライブビューイングでは幕間に舞台裏を撮る短いフッテージがあるのだが、この場面の直前の幕間ではステファノ(イザベル・レナード)やグレゴリオ(デイヴィッド・ウォン)が殺陣の動きの最終確認をしているところが映っていて、おそらくかなり危険なのではないかと思った。この演出ではロミオがティボルト(マーク・ヘラー)を刺してしまうところは完全に偶然…というか、ロミオがティボルトの剣を振り払った瞬間にうっかりティボルトが自分に剣を刺してしまったみたいな感じで、ティボルトがけっこう不器用に見える。