確定しないセクシュアリティ~『はちどり』(ネタバレあり)

 『はちどり』を見てきた。

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 舞台は1994年のソウルで、ヒロインである14歳のキム・ウニ(パク・ジフ)の暮らしを非常に丁寧に描いたものである。ウニの家庭はいろいろ問題を抱えており、一方で学校にもなかなか周りにあわせられない。きちんと話を聞いてくれる大人は通っている漢文塾のヨンジ先生(キム・セビョク)くらいである。友達と仲違いしたり、また思わぬ病気にかかかったり、様々な問題が降りかかってくる。

 十代の少女であるウニの暮らしぶりが非常にリアルに描かれており、一切ノスタルジックな理想化とか、少女の可愛らしさに対する幻想みたいなものがないところが良かった。出てくる女の子たちは全く美化されておらず、ウニはなんだかいつもブスっとしているし、たまに楽しそうな表情を見せる時はとてもチャーミングなのだがそこも必要以上に可愛く撮ろうとしていない。物語の内容は家父長制的な社会において、いかにウニのような子供が我慢させられているかという様子を非常に淡々と撮るというもので、物語の内容と、ウニを中心とする楽しそうではない女性達の撮り方が非常によく合致している。ちょっと尺が長すぎるような気はするが、それ以外のところについては非常によくできた映画である。

 とくに興味深いのはウニのセクシュアリティだ。ウニは一応ちょっとだけ付き合っている風な男の子がいるのだが、一方で自分にお熱をあげている女子の後輩がいて、それについてはわりと悪い気はしていない。結局はどちらともうまくいかなくなってしまうのだが、このあたりの淡い好意の流れが非常に自然なものとして描かれている。一方でウニはヨンジ先生に憧れていて、自分が女性にお熱をあげているほうでもある。このあたり、ウニのセクシュアリティは確定していないものとして描かれており、男の子を好きになることもあるし、女の子を好きになることもありそうだ。このあたりの描き方が非常に巧みで、ウニの暮らしの自然な一部として悪目立ちしない形で織り込まれている。