頼れる大人はメガネをかけている~チューリッヒ歌劇場『ロミオとジュリエット』(配信)

 チューリッヒ歌劇場『ロミオとジュリエット』を配信で見た。クリスティアン・シュプック振付によるものである。

 

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 わりと暗めのステージで、奥に窓のある二階建てのお屋敷なのだが、たまにお屋敷というよりは役所みたいな冷たい感じで見えることもある。冒頭ではローレンス修道士(フィリペ・ポルトゥガル)がこのセットの真ん中にキャピュレットとモンタギューの分断を象徴する白い線をチョークで引くところから始まる。たまに上からシャンデリアが降りてきて、これは後半のジュリエットの嘆きの場面で効果を発揮する。最後はこのセットがそのままジュリエットの墓所になるのだが、ここでは大量のキャンドルが暗い中に飾られるという特徴的な光の演出が行われている(この間のタリア劇場の『ロミオとジュリエット』も光の演出が特徴的だった)。

 衣装は一部ルネサンス風だが現代的なとところもあり、とくにメガネの使用が多い。ローレンス修道士と乳母(エレナ・ヴォストロティナ)はメガネをかけているのだが、2人ともこのプロダクションの中ではとりわけ信頼できそうな親切な大人として描かれている。このプロダクションのローレンス修道士はわりと世俗的な人で、キャピュレット家のパーティにも呼ばれているし、ロミオとがティボルトと殺し合いになる中盤の喧嘩の場面にも居合わせていて、いろんなところでトラブルを止めようと努力はするがうまくはいかない優しい大人という感じだ。一方でパリス(ヤン・カシエル)もメガネをかけているのだが、これは一見真面目なガリ勉風ながらかなり鈍くて、不用意にジュリエット(カティア・ヴンシェ)に触ってちょっと相手をびっくりさせるようなあまり気遣いのできない若者だ。衣装はおおむね登場人物の性格をよく表すもので良かったと思うのだが、ただパーティの場面で他の人たちはわりと暗めの色の衣装なのにジュリエットだけ赤くてやたら綺麗なドレスなのはちょっとかえってあざといかもと思った。

 大変ドラマティックなダンスと演出で、演技もダンスもできるパフォーマーを集めたしっかりしたプロダクションだった。主要キャスト陣はダンスが魅力的なばかりではなく、ちょっとしたところで表情を変えたり息をのんだりする細かい演技をしっかりやっており、さらにカメラがそうした動きを丁寧に撮っている。ロミオ(ウィリアム・ムア)がジュリエットに一目惚れし、人前でロミオの顔が見えてしまうまでのくだりは表情豊かで劇的に演出されているし、その後でひょうきんなマキューシオ(ダニエル・マリガン7)が場の雰囲気をごまかそうと面白おかしく踊ってみせるところも笑える。こういう感じでメリハリのある展開になっており、大変満足できるプロダクションだった。