踊りの優美さとはうらはらな暴力的演出~Kバレエ『ロミオとジュリエット 』in Cinema

 Kバレエ『ロミオとジュリエット 』in Cinemaを見てきた。3月の公演を収録し、映画館で上映するものである。

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 優美なダンスとはうらはら、けっこう『ロミオとジュリエット』としては暴力的な演出である。若者たちのケンカは女性陣も参加しており、動きもダイナミックでずいぶん荒っぽい。ティボルト(杉野慧)は酒を飲みながら出てくる荒くれ者で、油断したマキューシオ(吉田周平)をかなり本気で刺しており、あんまり人好きのしない柄の悪いキャラクターになっている。キャピュレット(グレゴワール・ランシエ)も相当にジュリエット(飯島望未)に対して暴力的で、とても良い父親には見えない。さらにお遣いに出たジョン修道士は疫病による隔離ではなく追いはぎみたいな犯罪者に襲撃されてロミオ(山本雅也)に手紙を届けられなくなるという、原作には無い暴力展開も付け加えられている。最後にロミオがパリス(堀内將平)を殺すところもわりとしっかり見せており、自暴自棄のロミオをひるまず見せている。

 こういう暴力的な演出は若者たちの性格造形にも影響している。最初に出てきた時のジュリエットはちょこまか動くむら気で小さな女の子といった感じでけっこう幼いし、ロミオもロザラインに夢中のぼーっとした少年だ。こんな2人が恋に落ちると、激しい恋心で高揚して踊り回ったかと思えば急に静止して深刻な顔で見つめ合う、気分の動きが激しい若いカップルになる。ジュリエットの動きや表情はかなり恋路の最初から不安があることを示唆しており、ジュリエットは恋で突然大人の世界に引きずり込まれてしまった少女のようである。突然の暴力の爆発と2人のやさしい恋心のギャップが大きく、このあたりのメリハリが特徴のプロダクションだと思う。