プロコフィエフからロマンティックを引くと…マシュー・ボーン版『ロミオとジュリエット』(ネタバレあり)

 サドラ-ズ・ウェルズ劇場でマシュー・ボーン版『ロミオとジュリエット』を見てきた。完全な新演出である。

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 プロコフィエフの音楽を使っているが、設定は相当変わっている。近未来の全体主義的な管理教育を行う寄宿学校を舞台に、監視員のティボルト(ダニー・ルーベンス)から性的虐待を受けているジュリエット(セリーン・ウィリアムズ)と、有力政治家の息子で学校に入れられたロミオ(アンディ・モナハン)が恋に落ちるというものである。マキューシオとバルサザーは恋人同士だが、マキューシオは泥酔したティボルトに殺害されてしまい、暴れ続けるティボルトをロミオとジュリエットが殺してしまう。引き裂かれた2人はローレンス師(学校で働く比較的ものわかりのいい女性)の手引きで会うことができるが、PTSDにかかったジュリエットがティボルトの亡霊に苛まれ、狂乱してロミオを刺してしまう。絶望したジュリエットは自殺する。

 

 全体的に、プロコフィエフの音楽に含まれているロマンティックなところを極力目立たせないようにして、現代音楽らしいギシギシした不協和なところ、不穏なところを強調することにより、全体主義的で不条理な世界を浮かび上がらせるような演出の作品である。たまに音楽が盛り上がるところでは、ロミオとジュリエット、あるいはマキューシオとバルサザーの若々しい恋の清々しさがチラっと見えるようになっていて、メリハリがある。背景に金網のような大きな塀があり、前方に男女に分かれた入り口のある壁セットは刑務所のようだ。ジュリエットがかなり複雑なキャラクターで、冷たい世界の中で虐待と抑圧に耐えて生きており、純情なロミオとの愛によって一瞬希望が見えるが、虐待による心の病のせいで悲劇的な結末を迎える。暴力がふんだんに出てくるショッキングな翻案で、ジュリエットの虐待と病の強烈な描写は賛否が分かれそうだが、これはこれで良いのではないかと思った。