登場人物の心象を強調する演出~メトロポリタンオペラ『オテロ』(配信)

 メトロポリタンオペラ『オテロ』を配信で見た。バートレット・シャー演出、ヤニック・ネゼ=セガン指揮で、2015年に上演されたものである。アレクサンドルス・アントネンコがオテロを演じており、ブラックフェイスなしのオテロ役ということで話題になったものである。

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 オペラの『オテロ』は原作にあるようにオテロとデズデモーナ(ソニア・ヨンチェヴァ)の駆け落ちではなく、夫妻がキプロス島に到着するところから始まるが、その後の展開は多少脚色はあるもののだいたい同じである。セットや衣装は19世紀風のものなのだが、豪華さよりは登場人物の心象風景と背景をあわせるみたいなことを考えているようで、けっこう抽象的だ。建物のセットが半透明でちょっとすけており、オテロの心を見透かそうとするイアーコ(ジェリコ・ルチッチ)のたくらみと呼応しているように見える。デズデモーナが夫の愛を不安がるところでは、夜の闇と雲の中にぽつんとでっかいベッドが置いてあるようなセットで、これもデズデモーナの心境をよく表している。ここではデズデモーナの切々とした歌とエミリアの反応がしっかり結びついていて、女性同士の信頼関係がわかるようになっている。

 オテロはブラックフェイスなしでも「よそ者」らしい雰囲気があって全く違和感はなく、また歌声も迫力があって良い。全体としては嫉妬に満ちたイアーゴのキャラクターが強調されている演出だと思った。このプロダクションのイアーゴはオテロと似た感じのたくましい軍人タイプなのだが、オテロのほうが少し年下みたいで、同じように努力してきたのに自分より若いオテロが仕事も私生活も成功しているのが気に入らないといった雰囲気だ。