小娘と大人の女~メトロポリタンオペラ『マノン』(配信)

 メトロポリタンオペラ『マノン』を配信で見た。マスネのオペラで、2012年に収録されたものである。先日見たバレエとは違う作品だが、話は結末の場所以外はだいたい同じで(マノンがアメリカに渡る前に亡くなる)、19世紀末のフランスを舞台に美女マノンとデ・グリューの恋のトラブルを描いたものである。

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 アンナ・ネトレプコがマノンを歌っているのだが、マノンが小娘と大人の女の間を行き来するような演出だ。第1幕では仕草も歌も表情も小娘みたいで、とても若々しくうぶで可愛らしい。しかしながら第3幕ではマノンはピンクの派手なドレスを着た大人の女になっており、さっきまでのうぶな小娘ぶりはどこへやら、いろいろな手管でグラマラスに男達を誘惑する。歌も前幕までのロマンティックなものではなく、技巧的で華やかさを見せびらかすような歌い方になっている。マノンが小娘から大人の女に早変わりしたのは、周りの男達がマノンをそういうふうに扱っているからだ。言ってみれば男どもの期待に添うために身につけただけの付け焼き刃の大人の女であるため、恋人だったデ・グリュー(ピョートル・ベチャワ)がサン・シュルピスで神父を目指していると聞いたマノンはまた小娘に戻ってしまい、白いドレスに着替えてデ・グリューによりを戻して欲しいと頼みに行く。第3幕終盤のマノンは、内側はデ・グリューに恋する小娘のまんま、うわべだけは女の手管を身につけたみたいな感じで、真剣にデ・グリューを誘惑する。第4幕ではまたマノンは大人の女ぶっているが、第5幕でアメリカに売り飛ばされようとしているマノンは再び小娘に戻っている。

 結局のところ、マノンは一度、周りからの圧力に負けてデ・グリューを裏切っただけで、他には自分から意図的に悪事をしているわけではなく、考えは足りないかもしれないし、衝動的で自分のことがよくわかっていないが、自主的に悪いことをしているわけではない。それなのに悪女扱いでひどい最後を迎える…というところに若干のミソジニーを感じるわけだが、たぶんこれは演出でわりと回避できるのだろうと思うし、このプロダクションのマノンもそこまで不愉快な女性というわけではない。アンナ・ネトレプコは文句なしに良かったし、またデ・グリュー役のピョートル・ベチャワの雰囲気がちょっとジョゼフ・ゴードン=レヴィットに似ており、いかにも学問と恋愛が両立できなくてトラブルを起こしそうな感じがする。セットも衣装も豪華でしっかりしたメリハリがあり、そこも良かった。