バランスが良く、メリハリのある上演~グラインドボーン『ジュリオ・チェーザレ』(配信)

 グラインドボーンの『ジュリオ・チェーザレ』(別名『エジプトのジュリアス・シーザー』)を配信で見た。ヘンデルの有名作で上演回数も多く、本来であれば違う演出だが新国立劇場4月にもこの演目が上演されるはずだった。これはデイヴィッド・マクヴィカー演出、ウィリアム・クリスティ指揮、2005年の上演である。

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 一度全然違うプロダクションを舞台で見たことがあるのだが、その時は正直、演出が変ちくりんであんまりピンとこなかった…のだが、これは全体的に人間関係のバランスをしっかり考えてあまり特定人物に視点が偏らないようメリハリをつけており、わかりやすい演出だ。美術は1920年代っぽく、クレオパトラダニエル・ドゥ・ニース)は短髪のフラッパーみたいだし、飛行船とか軍服などはちょっとスチームパンク風である。ただし全部が全部20年代風というわけでもなく、たまにバロック要素なども入ってきている。セットはかなり豪華で、背景で海上の船が動く装置などはいかにもバロックオペラらしく、また最後にクレオパトラチェーザレサラ・コノリー)が18世紀風味の大変豪華な衣装で登場してしめるあたりもヘンデル作品のツボを心得た感じだ。

 ヴィジュアルの点でも効果的な演出だが、それだけに頼らず、きちんと音楽やキャラクターに留意したプロダクションだ。フラッパー風のクレオパトラは、最初は女の手管だけでなんとか外交を一点突破しようとするセクシーな若い女性という雰囲気なのだが、終盤にかけて恋する大人の女かつもう少し成熟した政治家へと多少成長する。ジュリオ・チェーザレは美人に弱いという欠点はあるがいかにも堂々とした軍人である。復讐に燃えるコルネリア(パトリシア・バードン)やエジプトの楽しい雰囲気にあまり馴染めていない謹直な息子のセスト(アンゲリカ・キルヒシュラーガー)、バカ殿トロメオ(クリストフ・デュモー)などのキャラクターもしっかりしている。

 全体的には大変笑いが多く、ボリウッド風ダンスなども盛り込まれた愉快な作品なのだが、一方でシリアスなところは非常にしっかり聞かせる構成になっている。終盤でトロメオがコルネリアに性的な強要をしようとするところや、クレオパトラが恋も王国も奪われた女性の心情を切々と訴える2つのアリアなどは非常に深刻で劇的な場面として演出されている。窮地から泳いで逃げ出したチェーザレが疲弊して歌うところなどもとても表情豊かである。このあたりのバランスが上手で、そこが非常に良いと思った。