暴力と光~ベルリナーアンサンブル『マクベス』(配信)

 ベルリナーアンサンブルの『マクベス』を配信で見た。ミヒャエル・タールハイマー演出で2018-2019に上演されたものの撮影である。ドイツ語に英語字幕がつく。 

www.berliner-ensemble.de

 スモークをたいたり、意図的に舞台全体をものすごく眩しくしたりするなど、わざと見せないみたいな演出が多い。出てくる役者は6人で、舞台装置もほぼ何もない。全体的に非常に暴力的で、剥き出しの舞台で血まみれの人々が歩き回るみたいなヴィジュアルだ。魔女は大活躍するのだが、血まみれで内臓みたいなアクセサリをかけているし、マクベス(Sascha Nathan)は恰幅のいいややくたびれ気味の中年男性なのだが(これはすごくいい発想だと思う)、しょっちゅう血液だらけになっている。マルカム王子(Kathrin Wehlisch、魔女と兼役)は全く政治家として頼れなさそうなタイプなのだが、最後にスコットランド王になるところでは顔がえらく怖い魔女的な表情に変化するので、大変不吉である。さらにバンクォー(Tilo Nest)暗殺の場面では男性器をもがれるという非常に痛そうな演出がある。

 

 ハイナー・ミューラーが翻案した台本で全体的にものすごく台詞をいじっているのだが、英語字幕のクオリティがちょっとあまりいいのかわからない…ので(シェイクスピアの英語を使ってないところが多いのだが、現代的なわかりやすい英語かっていうとそうでもないところがある)、台詞については判断がつかないところも多かった。ただ、マクベスマクベス夫人(Constanze Becker)と不仲になるのが早く、やたら男性中心的な態度をとりながら自分はスコットランドと結婚しているなどとエリザベス1世風のことを言い出して妻を疎むようになる場面があり、このあたりはとくに台詞の追加が激しい。このため、ふつうの『マクベス』に比べると夫婦の絆の強調みたいなものがあまり行われておらず、さまざまなものを傷つける男性中心主義的な暴力が目につくようになっている。