美術がすごいのだが、たまに撮り方がよくわからない~メトロポリタンオペラ『ファウストの劫罰』(配信)

 メトロポリタンオペラ『ファウストの劫罰』を配信で見た。ベルリオーズのオペラで、この演目は一度生で見たことがある。2008年の上演を撮影したもので、演出はロベール・ルパージュである。

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 格子状の舞台に次々と映像で写る背景が変わる、特殊効果技術をふんだんに使ったプロダクションである。この格子はさまざまな役割を果たしており、序盤では疲れ気味の学者ファウスト(マルチェロ・ジョルダーニ)が眺める村祭りなどが格子で展開され、窓の外みたいな印象を与えるのだが、その後はそれぞれの格子が図書館の研究机になったり、マルグレーテ(スーザン・グレアム)の部屋になったり、見立てでどんどん変わる。メフィストフェレス(ジョン・レリエ)に誘惑されたファウストが船から水に落ちるところなどは人と映像が入れ替わる巧みな演出になっている。わりと吊り物もたくさん使っており、メフィストフェレスが率いる使い魔が上から降りてくるなど、見た目として面白い工夫がたくさんある。ファウストが地獄に落ちるところは黒と赤が基調でかなり暗く不気味である一方、エピローグのマルグレーテの昇天は青い背景に白い衣装の人々が集い、清々しい表情のマルグレーテが澄んだ天使の声に囲まれてハシゴを一歩ずつのぼり、最後は真っ白な光に包まれる。ここは純粋さと荘厳さが非常に強調されていて、かわいそうなマルグレーテの救済で多少ほっとして話が終わる感じになる。

 

 いかにも生き生きした悪魔的なメフィストフェレスや、人海戦術で迫力ある合唱など、音楽としても面白かったのだが、ただちょっと撮り方には気になるところがあった。10年も前のプロダクションだからだろうが、今のMETライブビューイングに比べると洗練されていないと感じる撮影がけっこうある。やたらと合唱に寄ってしまうなど、舞台全体の雰囲気を把握しづらい撮り方のところがいくつかあったと思う。

 

 途中の解説によると、この演目はコンサート形式はともかくそんなに頻繁に本格的な舞台として上演される作品ではないらしいのだが(2回しか見たことがないのだが、かなりお金がかかりそうな作品だと思った)、私が以前見たテリー・ギリアム演出版もものすごくいろんな技術を使ったスペクタクルだった。お話のつながりを重視するというよりは、迫力ある音楽でバーンと盛り上げる劇詩みたいな作りだし、視覚効果と相性の良い作品なのかもしれない。