オマージュがごっそり詰め込まれた楽しいアニメ映画~『バッドガイズ』(ネタバレあり)

 ドリームワークスのアニメ作品であるピエール・ペリフェル監督『バッドガイズ』を見てきた。

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 だいたい人間ばかりの社会の中にぽつぽつ動物のキャラクター(しかも多くはあんまり好かれていない感じの動物)がいるという世界観で展開するアニメである。ウルフ(サム・ロックウェル)、スネーク(マーク・マロン)、ピラニア(アンソニー・ラモス)、シャーク(クレイグ・ロビンソン)、タランチュラ(オークワフィナ)はみんな嫌われ者の動物たちで、アウトサイダー同士で組んだ窃盗団「バッドガイズ」として悪名高かった。ところがひょんなことから全員つかまってしまい、ウルフが刑務所行きを逃れるために行った策略の結果、バッドガイズはモルモットで慈善家として有名なマーマレード教授(リチャード・アイオアディ)のところで善良になるためのトレーニングを受けるが…

 たぶんクエンティン・タランティーノの映画などを見て育った大人が子どもを連れて見に行くことを想定して作られた作品で、児童書が原作の子ども向け映画にしてはけっこうハイコンテクスト…というか、いろんな先行作へのオマージュが多い。冒頭はウルフとスネークがカフェで変な話をしているところから始まるのだが、ここからして『パルプ・フィクション』のハニーバニーとパンプキンの挿話にそっくりである(もとの作品では恋人同士だが、本作ではブロ同士である)。その後は『ブルース・ブラザーズ』っぽいカーチェイスとか、ほとんど『ルパン三世』を見たことのない私ですら気付くレベルの『ルパン三世』オマージュとか、『オーシャンズ11』シリーズや『ミッション: インポッシブル』シリーズへの目配せなどが続き、中盤にはプロムで人気者の女王様にこれまで不人気だったウルフが選ばれるというティーン映画みたいな展開まである(たぶん私が気付いていないだけで他にもいろいろオマージュがあると思う)。スタイルはオーソドックスなアメリカのスラップスティックカートゥーンなので、子どもはそういう展開を見て楽しみ、大人はそのへんの目配せなどを見て楽しむという感じの作品だ。

 テーマはステレオタイプの内面化で、世間から悪いイメージを持たれている動物であるバッドガイズがいろいろなきっかけで変わっていく様子を描いている。このへんは『ズートピア』にけっこう似ているのだが、そうしたステレオタイプを内面化してしまった人たちが再出発する様子の描き方にちょっと特徴がある。派手に集団で盗みをしていたバッドガイズのほうについては、これまで悪党として名高かったのが改心したおかげでそのギャップがSNSで話題に…みたいな描写になっているのだが、一方でキツネのダイアン(ザジー・ビーツ)は一匹狼(一匹狐というべきか)の女性として正体を隠して怪盗として成功した後、虚しくなって改心し、過去を秘密にしたまま政治家として第二の狐生を歩んでいるという設定だ。最後にダイアナはバッドガイズを助けるべく、自分もかつて怪盗だったことを告白しようとするのだが、そこでウルフが介入して告白を止めるところがある。これは政治家としてキャリアを築いているダイアンは自分たちとは違い、過去を今公開したらせっかくの第二の狐生が危うくなるということに感づいているウルフの気遣いによるものだ。このへんの描き分けはわりと大人な感じで、やり直す時に過去を明かさずクリーンスタートする人と、そうではない人がいて、改心して生き方を変えるやり方はいろいろなのだ…ということをさりげなく示しているのだろうと思う。

 なお、本作ではウルフの声をサム・ロックウェルがあてているのだが、ロックウェルがこんなにいい声だったとは…とちょっとビックリした。私はサム・ロックウェルが大好きなのだが、クセの強い役ばっかりやっている役者で、ふだんはアホなやつとかレイシストとかすごい変人とかの役が多い。しかしながら今回はジョージ・クルーニートム・クルーズかというような伊達男役の声をあてており、ピッタリである(たまにでいいからこういう役を是非やってほしい)。