踊るサム・ロックウェル、足から刃物が生えた女、ネコ~『ARGYLLE/アーガイル』(試写、ネタバレあり)

 マシュー・ヴォーン監督の新作『ARGYLLE/アーガイル』を試写で見た。

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 シャイなスパイ小説家エリー(ブライス・ダラス・ハワード)はスパイ小説『アーガイル』シリーズで大ヒットを飛ばしていたが、ふだんは愛猫アルフィと静かに暮らしていた。新作草稿を母親のルース(キャサリン・オハラ)に送ったところ、中途半端なクリフハンガーすぎて続きがないと小説として完成度がイマイチだというコメントをもらってしまう。なかなか筆が進まないエリーは実家に帰ることにするが、途中の列車で突然襲われ、スパイだというエイダン(サム・ロックウェル)に助けられる。エリーの書いたスパイ小説があまりにも現実に近くて未来を予測するような展開なのでヤバい組織に狙われてしまったということで、エイダンとエリーはしばらく一緒に行動することにするが…

 全体的に『唇からナイフ』など、過去のキャンプでバカバカしくて面白おかしいスパイアクションを彷彿とさせる内容である。話はけっこうメチャクチャで強引だと思うし、オチのさらに一ひねりは要らない気がするし、たぶんわざと安っぽくしているのであろうCGとかも含めて大仰でわざとらしいところがいろいろある作品なので、そんなに良くできているというわけではおそらくない。他人におすすめできるかというとあんまりできないような気はする…のだが、個人的な偏愛ポイントが大変多くて、世間の人に広くウケることはないだろうが私の好みにだけは合致している映画である。

 ここから大きなネタバレになるのだが、終盤でエリーがゴージャススパイに変身して活躍するところは『唇からナイフ』ファンの私としては大変楽しい。ブライス・ダラス・ハワードがもともと筋肉美女タイプではなく、アート映画が似合うタイプの女優さんなのもモニカ・ヴィッティのモデスティ・ブレーズみたいで、意外性があって大変よろしい。しかも相手役が私のお気に入りのサム・ロックウェルで、ちゃんと踊るしアクションもするしユーモアもあるし、まあ私が見たいサム・ロックウェルそのもので、ロックウェルのアイドル映画みたいな感じすらしてくる。エリーがエイダンの立ち回りを見て自分の小説に出てくるハンサムスパイのアーガイル(ヘンリー・カヴィル)を想像してしまうところではロックウェルとカヴィルがショットで入れ替わったりするのだが、個人的には「いやそこ入れ替わらなくていいから!ロックウェルをもっと見せろ!」と思って見ていた。なお、エイダンはネコアレルギーなのだが、アルフィは最後までちゃんと無事である。

 また、最後まで見て考えると、ちょっとクィアなポテンシャルもある映画である。序盤でアーガイルがめちゃくちゃセクシーな女性スパイのルグランジェ(デュア・リパ)と踊るのだが、結末の後によく考えると、このアーガイルは実はエリーだったということになるので、冒頭ですごいホットなダンスをしていたのは女性同士ということになる。また、最後でアーガイルとワイアット(ジョン・シナ)が助かるところも、実はこの2人はカップル…ということになるはずだし、雰囲気だけはそういう感じである。このへんは正直、2024年の映画なんだからもっとがっつりクィアな感じでやってくれてもよかったのに…とも思う。

 なお、マシュー・ヴォーンは足から刃物が生えた女に何かフェティシズムがあるのでは…と思う。『キングスマン』でもソフィア・ブテラが武器みたいな義足で戦っていたが、この映画でも終盤でブライス・ダラス・ハワードがスケートをはいて戦うところがある。そんなフェティシズムのためにわざわざスケートを出してきたのか…とか、そのスケートはアイスホッケーなのかフィギュアスケートなのかどっちなんだ…とか思うところもありつつ、まあ見た目が面白いから良いとしよう…