そんなに好みの話ではなかった~『ウィリアムとウィリアムのウィリアムたち』

 サンシャイン劇場で『ウィリアムとウィリアムのウィリアムたち』を見てきた。キム・ヨンミ台本・作詞、ナムグン・ユジン作曲による韓国のミュージカルである。18世紀の有名なシェイクスピア贋作事件であるアイアランド贋作事件を扱っている。

 18世紀の末に文人ウィリアム・ヘンリー・アイアランドがシェイクスピアの作品を偽造し、それを父サミュエルに見せて、最後にはシェイクスピアの未発見戯曲だという『ヴォーティガンとロウィーナ』上演にまでこぎつけたが、それが贋作だったとわかり…というのがアイアランド贋作事件である。この作品はそれを父親に認められたいウィリアム・ヘンリーとサミュエルの葛藤の話に脚色し、3人だけのキャストでコンパクトにまとめている…のだが、あまり史実には即していない。シェイクスピア研究をしている私の個人的な視点からいうと、これってそんなにセンチメンタルな人情ものにする題材なのかな…と思った。18世紀末ロンドンの物見高い市民が大騒ぎする様子を描いた諷刺コメディとかにしたほうがもっと面白くなる題材なんじゃないかと思うし、この事件で一番活躍したのは贋作者よりも贋作を見破ったエドモンド・マローンなので、そっちを出してきたほうが楽しい話になるのではという気がする。また、歌はけっこうイマイチなところもあり、とくに主演の大内リオンはミュージカル単独初主演だそうで、非常に不慣れな感じがした。