部分部分は綺麗だが、全部つなげるとどっかで見たような…『ローズの秘密の頁』(ネタバレあり)

 ジム・シェリダン監督の新作『ローズの秘密の頁』を見てきた。

 全体的には、精神疾患患者の療養所に50年も入っていたローズ(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)の調査にやってきたグリーン医師(エリック・バナ)が、ローズの過去を探るという話だ。過去のローズ(ルーニー・マーラ)の物語は第二次世界大戦中のアイルランド、スライゴーの田舎町が舞台で、美人で世間の習慣に従わないローズが町で排斥され、秘密に結婚した夫を殺され、子殺しの嫌疑までかけられて療養所に強制収監され続けるという悲惨な話である。

 役者陣は大変豪華で演技もいい。テオ・ジェームズ演じるゴーント神父とか、ローズの夫マイケルを演じるジャック・レイナーとか、ちょっとだけ出てくるエイダン・ターナーとか、主役以外のキャストもかなり知られた役者で皆好演していると思う。景色の撮り方なんかもきれいで、アイルランドのラウンドタワーなんかを取り込んだ海辺の風景をよく生かしている。さらに、アイルランドにおけるカトリック教会による女性抑圧というのは重要なテーマだし、やっと中絶に関する国民投票が行われるという現在のアイルランドの世情を考えると、たいへん今日的だとも言える。なお、ベクデル・テストはローズとおばさんの会話でパスする。

 ただ、全体としては、どっかで見たような話をつなげただけ、というような印象を受けた。『マグダレンの祈り』をはじめとしてアイルランドにおける女性抑圧の話はたくさんあるし、また子どもをとられてしまうという展開ならば『あなたを抱きしめる日まで』のほうが相当映画としてうまく処理していると思う。とくに最後のあたり、カトリック教会の介入の話がけっこうバタバタかつぼんやり処理されてしまい、うやむやになってしまったような印象を受けるのが良くない。『あなたを抱きしめる日まで』では最後にいつもはいい加減なマーティン・シックススミスが教会に対して激怒するという映画らしい見せ場があるのだが、そういう見せ場を排して非常に淡々とまじめに親子の再会を描いているので、あまり盛り上がらなくなってしまったという印象だ。