ハンガー・ゲームのスコットランド~グローブ座『マクベス』(配信)

 グローブ座の配信で『マクベス』を見た。これはドイツ銀行がスポンサーになってイギリスの子供たちが学校で習う演目を上演するプロジェクトの一環で、2020年春にロックダウン直前まで上演されていたものである。現在、学校閉鎖中の自習教材として無料配信されている。

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 子供向けということで90分に短く編集されており、マクベス夫人(エリー・コンドロン)の夢遊病場面の前後などがカットされているのだが、話はきちんと通るようになっている。子供向けとはいえ、舞台に死体が積み重なっているところから始まるわ、途中で門番がゲロ吐くわ(子供たち大喜び)、マクベス夫人が流産するわ、グロテスクな描写はあんまり控えていない。このプロダクションのマクベス夫人は前半では明らかに妊娠していて、おそらくマクベス(エコー・クォーティ、『バーバーショップ・クロニクルズ』にも出演)には生まれた子供を王にしたいという考えがあるらしいことが示唆されているのだが、バンクォーの亡霊の場面の後で流産しており、夢遊病になってしまったのはそのせいだ。マルカム王子(エイダン・チェン)がまるで高校の優等生みたいな半ズボンのにいちゃんなのは子供たちに親近感を抱いてもらうためだろうが、王子が自分は童貞だと言うところはカットされている。

 このプロダクションの特徴として、『ハンガー・ゲーム』っぽいディストピア風な雰囲気があげられる。青と白というスコットランド国旗をモチーフにした衣装やバナーがたくさん用いられているのだが、白いスーツに身を包んでゴルフなんぞしているダンカン王はキャピトルのスノウ大統領みたいだし、ロス(アマンダ・ライト、女性という設定)はすごくオシャレでエフィ・トリンケットみたいだ。これも子供たちに楽しんでもらうためなのだろうが、ほとんど背景も使えないようなグローブ座でも、ファッションや立ち居振る舞いなどだけでちゃんと『ハンガー・ゲーム』っぽいディストピアらしく見せているのには感心した。