マクベス夫人を再構成する~『令和X年のマクベス』(配信)

 戯曲組『令和X年のマクベス』を配信で見た。吉村元希による翻案・演出の作品である。オールフィメールで上演される。

 なかなかあらすじが説明しにくい話で、意識不明のマクベス夫人をマクベスがもとに戻そうとして魔女に頼むがふつうのやり方ではうまくかず、ヘカテの助力でマクベス夫人にAIをインストールする…という設定がある。その後はまあマクベス夫人が中心の『マクベス』みたいな感じになるのだが、いろいろと細かいところが違っていわゆる『マクベス』ではなくなっていく。終わり方も原作とはだいぶ違う。

 戯曲組の前の作品である『令和X年のオセロー』同様、ジェンダーの観点からシェイクスピア悲劇を再構成する作品である。この作品におけるマクベス夫人は、マクベスに意志によるAI設定のせいもあって原作よりも序盤ではだいぶ主体性がなく、夫の犯罪にただただ巻き込まれる被害者みたい感じで進んでいくのだが、いろいろ不具合が生じ、やっと終盤で自分の意志を発揮する。最後のAIのアンインストールは社会規範をアンインストールするみたいなことにつながり、マクベス夫人は男性の身勝手で愚かな行動に振り回されていたが、そこから離れることだってできる…ということが示されている。一方でマクベスのほうも世の中から押しつけられた「男性」の役割を演じるためにかなり苦労しており、マクベス夫人とは違う形でいろんなものをインストールされているが、自分ではそれが理解できいないんだな…ということがわかる演出になっていると思う。