バーミンガムオペラ『ムツェンスク郡のマクベス夫人』を見た。指揮がアルペシュ・チャウハン、演出がグレアム・ヴィックによるものである。2019年のプロダクションで、バーミンガムオペラの50周年記念公演だそうだ。
このオペラはあまり得意だと思ったことはないのだが、イマーシヴ演劇っぽい演出で、大変現代的である。ふつうのオペラハウスではなくタワー・ボールルームというクラブを使っていて、ステージだけではなく客席の中で歌や演技をする場面もある。着ているものなどは完全に現代で、カテリーナの一家は黒人であり、人種的にもバラエティのあるキャストだ。ブリッジ劇場の『夏の夜の夢』みたいな感じで、けっこう撮影も凝っている。
音響がふつうのオペラハウスと違いすぎてオーケストラも歌手も大変だったのではないかと思うのだが(以前にクラブでオペラを見たことが一度あるのだが、バンドを出すクラブとオケが入る劇場ではやっぱり音の響き方が違う)、全くそういうことが気にならなくなるエネルギッシュな上演である。クラブの中を歌手たちが所狭しと動き回り、撮影もかなりそれをちゃんと撮っている。私はこの作品のミソジニー的な感じが非常に苦手なのだが、それでも最後まで見てしまうだけの面白さがあったと思う。暴力がかなりあからさまで、グロテスクすぎて可笑しいというようなところもあり、とくにきのこで毒殺したお父さんの葬儀の場面で"DADDY"というでかい花輪が出てくるところなどは笑ってしまう。作品じたいが苦手でも、演出を見るだけで価値があると思った。