とても現代的な演出~新国立劇場『カルメン』

 新国立劇場で『カルメン』を見てきた。アレックス・オリエ演出、大野和士指揮によるものである。一部公演が中止になったので心配していたが、無事上演された。

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 完全に現代的な翻案で、セットは金属のパイプの枠組、カルメン(ステファニー・ドゥストラック)はエイミー・ワインハウスそっくりの髪型をしたロック歌手である。カルメンはその時その時で好きになった相手は情熱的に愛するのだが、冷める時は急速に冷めてしまうタイプである。このプロダクションではカルメンは古典的なファム・ファタルというよりはわがままで移り気なところはあるが基本的に自由な精神を持つ現代女性、ホセ(村上敏明)はカルメンに夢中になった末にストーカー化してしまう男として描かれている。とくに最後のところは、カルメンがホセの言うままには絶対にならないと宣言して結局殺されてしまう、DV気味の男が出て行った女を執拗に追い回して殺害したというようなとてもイヤな感じの場面になっている。いくらカルメンのせいで警察でのキャリアが断たれたからといって、ホセの態度は全く容認できない。踊るところや台詞のおかげで少々ミュージカルみたいな感じもあり、初心者にもわかりやすい公演だ。

 大変面白い公演なのだが、ひとつ気になったのはエスカミーリョ(アレクサンドル・ドゥハメル)の衣装である。全体的に完全に現代の話で細かい重点が変わっており、カルメンがロマとしての自分の出自を大事にしているらしいところとかは非常に薄められているし、軍隊が警察になっていし、闘牛士の歌が歌われるところは歌詞が変わっていないのにレッドカーペットになっており、歌詞に出てくるピカドールとかが出てこないかわりにセレブリティがカーペットを歩くという演出になっている…のだが、エスカミーリョは一応、最後に闘牛士っぽい服装で出てくる。エスカミーリョはたぶん闘牛士という設定のままで、今で言うスポーツセレブ選手みたいに提示されていると思うのだが、しかしながら序盤でエスカミーリョが酒場に入ってくるところではふつうのスーツを着ていてあんまりセレブ選手っぽくない(あと、この場面では全然エスカミーリョの歌声が聞こえなかったのだが、あれは本人の不調だろうか、それともセットのせいなんだろうか?)。このへんはもうちょっと全体のアップデートに合わせて、エスカミーリョをもうちょっとボクシングとかアイスホッケーとか、現代的なスポーツの有名選手にしてもいいのではないかと思った。