オフィーリアを死なせない~『令和X年のハムレット』

 戯曲組が吉祥寺シアターで行った公演『令和X年のハムレット』を配信で見た。演出もつとめている吉村元希による『ハムレット』の翻案である。『ハムレット』以外にもおそらく『ローゼンクランツとギルデンスターン』などからも影響を受けていると思われる。リーディング公演なのだが、キャストはかなりリーディングっぽく読んでいるだけの人と、わりと身振りの演技もしている人、両方いる。

 コンセプトはこの間世界シェイクスピア学会で配信していたナタリー・ヘネディゲとミシェル・タンの『オフィーリア』と同様、オフィーリアやガートルードなどを通して『ハムレット』をフェミニズム的に読み直すというものである。ヘネディゲとタンの『オフィーリア』よりはだいぶわかりやすく、ストレートな翻案になっている。さらに他にも最近だと一般向けの映画でデイジー・リドリー主演の『オフィーリア 奪われた王国』というのがあり、これもオフィーリアを軸にした『ハムレット』の翻案なのだが、オフィーリアが死なせないようにしようというポイントの部分はこの映画とも共通している。全体的に『令和X年のハムレット』は天皇制などが残っている日本の王室と保守的なデンマーク王室が重ねられているようで(眞子内親王の話題などを思わせるところがある)、台本を投げ捨てて出て行くオフィーリアは非常に現代的だ。リーディングではなく本格的な公演で見てみたいと思った。

 ただ、二点ほどちょっと疑問に思うところがあった。まず、オフィーリアがずっと女言葉を使って話しているのは要らないのでは…と思った。現代女性で元気なオフィーリアはもっと現代女性らしく話すのではないかと思う。また、ガートルードは保守的な家父長制にのっかって家母長をつとめようとしている女性なのだが、これについてはもうちょっと掘り下げたほうがいいのではという気がした。終盤でガートルードのキャラクターにはちょっと深みが出てくるのだが、中盤まではちょっとステレオタイプ的な陰険な家母長になっている気がする。