ハムレット2本立て(1)グラインドボーン『ハムレット』(配信)

 グラインドボーンの『ハムレット』をMarquee TVの配信で見た(アマゾンプライムでも見られるようだ)。ブレット・ディーンによる新作オペラである。

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 アプローチは非常に現代的だ。衣装やセットは今の時代のもので、最初はホレイシオが亡霊に出会う場面ではなく、ハムレットの独白から始まる。またテクストのカットや入れ替えに特徴がある。わりとスピード感重視でいろいろカットしているほか、例の「生きるべきか死ぬべきか」独白が一番最初を含めて複数回出てくるなど、わりとリブレットに工夫がある。役者たちが到着するところは大変面白く、一座が入場すると同時にセットが回転して楽屋になる。劇団員たちがいろんな台詞の引用を口にし、自分たちで「生きるべきか死ぬべきか」をやるなどというとても自己言及的なジョークがある。

 ちょっと気になったのはオフィーリア(バーバラ・ハニガン)の扱いだ。オフィーリアはオシャレな若い女性なのだが、最初のパーティの場面からけっこう暗くて精神不安定そうである。オフィーリアは最初は明るいのにだんだん不安定になって最終的には狂気に陥るというふうにメリハリをつけたほうがいいと思うのだが、どうもはじめの部分から性格が暗すぎる気がした。 狂乱の場面では、調子外れな繰り返しをうまく使った歌がとても効果的なのだが、服を脱いで泥だらけの肌を出すとかいうのは女性の狂気の描写としては陳腐なのでは…という気もした。一方、この作品ではガートルード(セイラ・コノリー)がわりと優しく、また再婚が早すぎたことを気にしている雰囲気で、冒頭からオフィーリアにも親切に気を遣っており、このあたりは良かったと思う。