とにかく長いが、話の流れを考えてカットしている~東京グローブ座『ハムレット』

 東京グローブ座で『ハムレット』を見てきた。森新太郎演出で、ハムレット役は菊池風磨である。

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 セットは比較的シンプルなのだが、とにかくいっぱい回転する。最初にクローディアスが臣下の前でハムレットにヴィッテンベルクに帰らないよう言う場面からして既にぐるぐるセットが回転しており、わりと役者が止まっていてもステージを動かすことでお客の視線をコントロールしようとしている演出だ。衣装などは多少現代風で簡単なものが多く、あまり豪華なものは避けているようだ。

 私が見たのは2日目だったのだが、なんと初日が台風で中止になってしまい、2日目が実質初演だったので、とくに最初のほうは役者が全員ちょっと堅かった。とりわけ、初めてストレートプレイで大役を演じたらしい菊池風磨は、最初のほうは傍目にも明らかにわかるくらい緊張しており、ちょっと大丈夫かと心配になった。ただ、狂気を装う場面で突然大変にぶっとんだ行動をとるようになり、ここは非常に面白おかしくて良かったので、全体的にもっとリラックスして滑稽なほうに寄せるといいと思った(DVDにもなってるデイヴィッド・テナント版とかを見て研究するといいのかもしれない)。わりと頭で考えて計算づくで心の病を装っている感じのハムレットで、本当に取り乱しているという感じになるのはポローニアスをうっかり殺してしまうところくらいだし、ここもすぐ立ち直っている。ふつうはオフィーリアの墓で暴れるところもかなり正気でない雰囲気を漂わせているような演出が多いのだが、このハムレットは比較的冷静なほうで、そこまでレアティーズと激しくもみあったりはしない。

 全体的にオーソドックスに基本をおさえる感じの演出で、さらに上演時間が4時間ということで、とにかく長い。ふつうはカットして4時間以内におさめるのだが、休憩が2回あり、ポローニアスがレアティーズの様子をさぐるためスパイを差し向ける場面など、けっこうふつうはカットされるようなところもやっている。一方で話の流れを良くするためのカットがいくつかあり、役者たちが到着したあとにハムレットが「『ゴンザーゴー殺し』はやれるかな?」と聞いて、台詞を付け足してやってほしいと頼むところがなくなっている。これは、次に独白があり、この独白の中で「叔父の良心の呵責をあぶり出すために芝居をしよう」と思いつく台詞があるからだ。独白は前の場面でハムレットが考えていることを無時間的に表現しているので、既に前の場面で芝居をやるつもりだとお客さんにわかっていてその後にハムレットが自分の心境を説明してもおかしいところはないのだが、このプロダクションでは前の場面で既に説明したことを独白で繰り返すのを避けるためにカットしている。さらに、ふつうの台本では居室の場でガートルードに対してハムレットが、自分はイングランドに行かなければいけないということを話し合う場面があるのだが、実はここは流れが悪いとよく指摘される箇所なので(それ以前にハムレットイングランド行きを明示的に教えてもらう場面がない)、そこも短くしている。

 ちょっと変わった演出としては、狂気のオフィーリア(南沢奈央)がヴェールをかぶって顔が見えない状態で出てくるところがある。ふつう、オフィーリアはバラバラの髪で入って来てみんなをびっくりさせるのだが、単純な見た目ではなく台詞や動きでオフィーリアの狂気を伝えようという演出だ。さらに、墓掘りの場面ではおなじみのガイコツだけではなく人骨がまるごと登場し、墓掘りたちが車輪がついて動く人骨をふっとばしたりする。このあたりのブラックユーモアの炸裂ぶりは森新太郎っぽい。

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