水のキプロス〜新国立劇場『オテロ』

 新国立劇場ヴェルディオテロ』を見てきた。マリオ・マルトーネ演出、パオロ・カリニャーニ指揮である。このオペラを見るのは初めてだ。

 オペラは初心者なのであまり詳しいことはわからないのだが、歌は「柳の歌」が良かったと思う。話はかなり大胆にカットされている一方、脚色もある。また、エミリアが非常に良い人として描かれており(かなり強引にイアーゴーに押し切られてハンカチを渡すなど、女主人に非常に忠実)、おそらく歌手(清水華澄)の個性もあってとても優しい女性に見えた。ちょっとビックリしたのはオペラではブラックフェイスがOKなんだ…ということである。オテロ役のカルロ・ヴェントレは浅黒い化粧をしてオテロ役を歌っているのだが、これはおそらくストレートプレイではもはや許されないというかお客さんがぎょっとするような演出なんだけれども、オペラでは普通に行われている…のかな?ただ、このオペラ版はシェイクスピアの原作よりも肌の色に焦点をあてていないというか、オテロの肌色よりもよそ者であることのほうが強調されていると思ったので、無理にブラックフェイスにしないほうがいいのではと思った。着るものとか演出とかでよそ者らしい雰囲気を出すのでも良さそうな気がする。

 全体的にセットが大変綺麗である。キプロス島が舞台なのだが、ちょっとヴェネツィアを思わせるような水路のセットで、本物の水をふんだんに使っている。照明も水の反映を模したもので、非常に凝っていて見映えがする。オテロが水辺で死ぬ場面など、登場人物が浅瀬に入る演出がけっこうあり、これがなかなか心境の不安定さをよく表していてよいと思った。また、冒頭では火をたくさん使った派手な演出もあり、これも良かった。ただ、このキプロスの野外を模したオープンな雰囲気のセットを活用しようとしすぎたあまり、最後の場面では新婚夫婦の寝室らしい親密さがちょっと薄まったように思う。もうちょっと小道具とかで親密感を出せたのではないだろうか。