どうしても美術が好きになれなかった~新橋演舞場『オセロー』(ネタバレあり)

 新橋演舞場で井上尊晶演出『オセロー』を見てきた。

 

 蜷川幸雄の演出助手だった方が作っているということなのだが、全体的にニセ蜷川みたいな感じで、かなりはっきり私は好きではないと言える感じのプロダクションだった。ヴィジュアルが良いと思えなかったところが大きい。中村芝翫演じるオセローの演技は良いのだが、いまどきブラックフェイスは要らない。また、セットと床の使い方があまり気に入らなかった。第1部は船が行き交うヴェニスの街角やヴェニス公爵の会議室、第2部は大きな階段があるキプロスの城壁、第3部は鏡の間など、地上のセットは全体的にかなり作り込まれたものである。一方でとくに中盤から終盤、こうした凝ったセットとは不釣り合いな色つきテープが張りっぱなしの剥き出しの床を目立たせてなんとなく異化的な効果を出そうとしているようで、この見た目の対比がちょっとあざとく感じた。

 

 あと、『オセロー』は全体としてイアーゴーが観客を共犯に引きずり込む芝居ではあるのだが、このプロダクションではイアーゴー(神山智洋)をちょっと持て余してしまっていて、そのせいで焦点がぼけているような印象を受けた。とにかく顔が良いイアーゴーで、そもそもイアーゴーは何かの劣等感を抱いているような役柄として演出されることが多いと思うので顔が良いイアーゴーというのは大変だと思うのだが、このプロダクションでは序盤でイアーゴーが地球儀をもてあそぶチャップリン『独裁者』のオマージュがあり、イアーゴーをハンサムだが出世できなくて権力欲がある若者として演出しようとしているようでけっこう期待が持てた…のだが、後半ちょっとイアーゴーがかなり人間味のある若者に見えてしまうところもあり、全体的に序盤で提示された権力欲のモチーフがうまく回収されてないように見えた。最後に一応、事実なのかイアーゴーの妄想なのかわからないミョーに蜷川っぽいオチがあるのだが、ここまでイアーゴーに引きつけなくても良いのではと思ったし、落とし方は本当にパッとしなかったと思う。