大変良い上演だが、相変わらず映像が…ブラックフライアーズ劇場『オセロー』(配信)

 ブラックフライアーズ劇場、イーサン・マクスウィーニー演出『オセロー』を見た。有料配信で、数日前に上演されたものである。

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 ルネサンス風の衣装にシンプルなセットを使った正攻法のビジュアルだが、この上演の特徴はキャスティングである。オセロー役は女優のジェシカ・D・ウィリアムズで、このオセローはものすごくカッコいいのだが、女優が演じているということで男らしさをめぐる芝居であるこの作品の特質がよく出ている。女優が男らしさの鑑であるオセローを実に「男らしく」演じることで、男らしさというものが文化的に作られたものであり、ある意味では現実から乖離した理想にこの芝居の登場人物が振り回されているということが見えてくるようになっている。

 さらにこのプロダクションは非白人のキャストが非常に多く、オセローどころかキャシオーも黒人男性のブランドン・カーターが演じているし、エミリア(コンスタンス・スウェイン)もビアンカ(サラ・スズキ)も非白人である。キャシオーが黒人男性だというのはこの芝居の中では大きく、イアーゴーの人種差別的な怖れが際立つ一方、オセローがキャシオーに寄せる嫉妬心は内面化された人種差別の直接の表出というよりは、同じく白人社会で成功しているキャシオーに対する対抗心や、なんともいえない自分の中の不安に起因するものとして描かれるようになっている。劇評でも、オセローの嫉妬心は肌の色よりも心に起因するものだと書かれているが、ジェームズ・マカヴォイ主演の『シラノ・ド・ベルジュラック』といい、最近はそういうふうに男性の不安を焦点化するような演出が流行りなのかもしれない。

 役者陣は全員素晴らしく、オセローはもちろん、颯爽としたキャシオー、若くて友達みたいなエミリア、面白くてカリスマのあるイアーゴー(ジョン・ハレル)、真面目なデズデモーナ(ミア・ワーグラフト)、とにかく笑えるロドリーゴ(ゾーイ・スピアズ)など、アンサンブルがとてもよく効いている。

 ただ、相変わらず映像のクオリティは大変よろしくない。引きで撮った時の画質が悪いし、音もイマイチである。これは本当になんとかしてほしいものだ。