オレは自分の心を袖から出してカラスにつつかせたりはしない〜子供のためのシェイクスピア『オセロー』

 子供のためのシェイクスピアオセロー』をあうるすぽっとで見てきた。カットして2時間におさめたコンパクトな上演である。

 このプロダクションシリーズはいつも演出・出演の山崎清介が人形を使用するのだが、今回はイアーゴーが人形を使うようになっており、この使い方がなかなか面白い。オセローつきの巫女が出てきて、呪術のかかった「こころ」という名の旗持ち人形をイアーゴーに与えるのだが、この後イアーゴーが言いたくないことがほぼこの人形の口から出てくるようになる。この演出により、独白などの長い台詞にはメリハリがつくようになるし、イアーゴーの内心のためらいや嫉妬心などがうまく表れるようになった。
原典に「オレは自分の心臓(=心)を袖から出してカラスにつつかせたりはしない」という台詞があるのだが、この台詞がうまく使われている。

 前半はこの人形の使い方意外はフツーかなと思ったが、後半からだんだん引き締まってきて、とくに殺人の場面はデズデモーナが首をしめられた後も台詞があるという原典のごちゃごちゃしたところをうまく処理していた。死ぬと後ろ向きに椅子に座らされるという設定で、デズデモーナの瀕死の台詞は周囲のコロスのような人々がエミリアにささやくという演出になっており、リアリズムでは対応できないところをうまく見せている。また、この最後の場面では「オセローはいったい剣を何本持っているのか」が演出で問題になるのだが、ここも机の上に置いた剣をオセローがとるというふうにきちんと処理していた。

 オセロー役の河内大和はなかなかよかったと思う。以前のカクシンハン版ではイアーゴーを演じていたのだが、高貴だが愚かなところもあるオセローはかなり役者の個性にあっていたと思う。冒頭部分でオセローとデズデモーナがかなりラブラブに演出されていたのに、オセローがだんだん冷たくなっていくあたりも起伏がある。ただ、その点ではデズデモーナが歌う「柳の歌」がカットされていたのは残念だったな…悲しく、情感に富んだ場面だと思うのだが。