とても野心的だが、好きかというと…劇団AUN Age.1『オセロー』

 浅草九劇で長谷川志演出、劇団AUN Age.1『オセロー』を見てきた。

 ほぼ何もないブラックボックスみたいな舞台にかなりカットを少なくした台本で(全くカットがないというわけではないが)、台詞をきちんと聞かせる上演である。キプロス上陸後の台詞などはカットされていたが、オセローが死ぬところの長い台詞などもけっこうカットしないでやっている。前半は長い台詞に多少苦戦しているような雰囲気もあったが、後半良くなってきた。

 

 この上演の特徴は、イアーゴー(齋藤慎平)がオセロー(谷畑聡)を騙す場面がまるっきりブラックユーモア仕立てであるところだ。もともと、このプロダクションのオセローは最初から目力がすごくて、かなり芝居がかった感じで演出されている。イアーゴーが悪巧みをする場面ではオセローの騙されやすさが全開になり、大仰な驚愕をどんどんエスカレートさせてギョロ目をぎらつかせるオセローに、さらに図に乗ったイアーゴーがたたみかけるようにあり得ない嘘八百を並べ立て、それなのにオセローがこれまた大げさなリアクションで信じてしまう…というようなことが繰り返される演出になっている。アホなオセローと、嬉しそうに悪巧みをどんどんすすめるイアーゴーの様子がかなり戯画化されてまるでブラックコメディみたいになっており、会場は爆笑だった。『オセロー』でここまでブラックユーモア仕立てでこの場面を演出するということはそんなに見たことないので(ちょっと笑いを盛り込む程度ならあると思うけど)、たいへん野心的で個性的な試みだったと思う。

 

 ただ、ここまで途中をブラックコメディ仕立てにしてしまうと、後半とのバランスが問題になってくるように思った。前半では衣装がわりとモダンな感じだったのだが、後半はメリハリをつけるためかちょっと時代劇っぽくなってオセローが地中海ふうのエキゾチックな白い衣装を着て出てきたり、ビアンカがやたら派手な衣装を着てきたりするので、やや見た目に統一感がない。また、ちょっとオリエンタリズムっぽい感じがするのも良くない。

 さらに、オセローは前半も後半も非常にハイテンションな演技をしていて、同じ調子なのに前半ではブラックユーモアだったのが後半では完全な悲劇になる…というのがポイントなのだと思うのだが、正直、うまくいっているのかよくわからなかった。前半をあれだけブラックコメディ仕立てにしてしまうとオセローの愚かさがものすごく強調されてしまうので、本来は高潔だったはずの人物がひょんなことから恐ろしい犯罪を…というよりは、「男ってバカだねー」みたいな方向性に回収されてしまうと思うのである。これはこれでいいのかもしれないし、見る価値はある上演だが、好みはかなり分かれると思う。