ユタ出張(7)ユタシェイクスピアフェスティヴァル、ストレートな演出の『オセロー』

 ケイト・バックリー演出『オセロー』を見てきた。

 親密感のあるスタジオで、後部に金属の幾何模様の扉が設置されているだけのシンプルなセットである。この扉は幾何模様の隙間からある程度向こう側が見えるようになっているのだが、最後の場面で使われるベッドなどはこの扉から出てくる。舞台には少し段差があり、三方を客席が囲んでいる。服装などは現代風で、全体的にモダンな印象だ。

 全体的には台詞や動きを丁寧に作り込んだストレートで緊張感のある演出なのだが、多少個性的なところもある。原作ではデズデモーナよりかなり年上だと思われるオセロー(ウェイン・T・カー)が颯爽としたエリート青年将校であるところがおそらくポイントのひとつで、オセローとデズデモーナ(ベッツィ・マガヴェロ)は若々しくて魅力的なお似合いのカップルだ。オセローがけっこう最後のほうまでうわべだけでもデズデモーナに優しくしようとつとめていて、新婚の妻に対する若々しい情熱的な愛をなかなかあきらめられないのがわかる。これに対してイアーゴー(ブライアン・ヴォーン)はひげのはえたおじさまだ。人種が違い、若くして成功していて将来を嘱望されている上司を、うだつのあがらない中年男が嫉妬しているといった感じになっている。イアーゴーは全体的に皆から好かれる良い人を装っているというよりは、多少憎まれ口も叩くが世慣れた男として周りから信頼を得ているといった感じだ。

 奇をてらったところは少ない演出なのだが、一箇所けっこうぎょっとするようなところがあった。最後にオセローが自殺するところで、けっこうおおっぴらにキャシオー(ジェド・バリス)がオセローに剣を渡すのである。この場面でオセローが最後の自殺する剣はどこから出てくるのかというのは台本に記載がなく、演出で解決しなければならないのでいろいろなバリエーションがある。キャシオーがこっそり渡すというのは別に極めて珍しい演出というわけではなく、私も1、2回は見たことあるのだが、この演出では舞台の奥側に他の人たちが集まっている時、手前に立っているオセローに対してキャシオーが他の登場人物からは見えないものの、観客からはわざと丸見えになるように剣を渡しているのがちょっと珍しいし、びっくりする。キャシオーとオセローは軍人としての名誉のコードを共有していて、「もうこうなったら死ぬしか解決法がないっすよね」みたいな雰囲気が2人の間に漂っている。オセローが自殺したときにキャシオーがわざとらしく驚いてみせるあたり、キャシオーもなかなか一筋縄ではいかない男だ。