屋根裏の夢~新国立劇場オペラ『夏の夜の夢』

 新国立劇場ベンジャミン・ブリテン作曲のオペラ『夏の夜の夢』を見た。この演目は新型コロナウイルスロックダウンが始まってから配信で一度見たのだが、生の舞台で見るのは初めてである。デイヴィッド・マクヴィカー演出に基づき、「ニューノーマル時代の新演出版」としてレア・ハウスマンが調整した上演である。

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 セットは屋根裏部屋の物置のような部屋で、右手には薬局にあるみたいな棚や天球儀(地球儀かも)、左側には椅子など、ゴミだか何だかわからないような家具類が置いてあるが、真ん中は比較的開いていて動くスペースがある。後ろ側にクローゼットのような扉のついた棚があり、ここから妖精などが出入りすることができる。どうもこの扉が異界との接点になっているのがポイントのようで、ちょっと『ナルニア国物語』のクローゼットを思い出した。全体として屋根裏の夢みたいな上演である。

 妖精達が大活躍する作品で、最初に恋人たちがシーシアスとヒポリタに会う場面はなく、妖精で始まって妖精で終わる。オーベロン(藤木大地)、タイターニア(平井香織)、パック(河野鉄平)以外の小さな妖精たちも大活躍だ。
TOKYOFM少年合唱団がこの小さな妖精たちの役で登場し、ボーイソプラノで人間離れした印象の歌を聴かせてくれる他、舞台上でリコーダーなどの楽器も演奏してものすごく頑張っている。

 そもそもこのオペラはもともとの構成自体が妖精の活躍を描くことを目的にしているみたいで、恋人たちや職人たちよりも明らかに妖精に焦点があたっている。シーシアスとヒポリタの出番が少なく、ハーミアの父親も出てこないせいでアテネの政治権力による若者への横暴という要素も薄くなっている。オーベロンがカウンターテナーでスターのような役だということもあり、このオペラ版『夏の夜の夢』は恋物語というよりは妖精のおとぎ話で、演出もそれにあわせたものにしているのだろうと思った。