優しく温かい話と思いきや…『スウィート・シング』(オンライン試写、ネタバレ注意)

 アレクサンダー・ロックウェル監督の新作『スウィート・シング』をオンライン試写で見た。

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 主人公は15歳のビリー(ラナ・ロックウェル)とその弟である11歳のニコ(ニコ・ロックウェル)である。父親のアダム(ウィル・パットン)は愛情深いがアルコール依存症で全く頼りにならず、ビリーが弟の面倒を見ながら貧しい暮らしをしている。そぬちあまりにも症状が悪化したアダムが子どもたちの面倒を見られなくなり、2人は父と別れて粗暴なボーイフレンドのボー(ML・ジョゼファー)と暮らしている母イヴ(カリン・パーソンズ)に預けられることになるが…

 主役の姉弟は監督の実子で、イヴ役も実際のロックウェルのパートナーであるカリン・パーソンズが演じており、ある種のホームムービー(にしてはずいぶんと悲惨だが)みたいな作品である。全体的にモノクロ(一部カラー)の親密感ある映像で『スタンド・バイ・ミー』など過去の有名作のオマージュを盛り込み、温かみのある画面を作っている。ちょっと手持ちでブレるところがあるのはあまり良くないと思ったが、気になるほどの量ではない。ビリーが弟の面倒を見てやらないといけないわりには不必要に大人びた少女として描かれておらず、ちゃんと子どもっぽいのがリアルで良いと思った。途中で出てきて姉弟と友達になるマリク(ジャバリ・ワトキンス)はスケートパークでスカウトされたそうだが、初めて映画に出たとは思えないくらい存在感がある。

 優しく、温かい雰囲気で子どもたちを描いた作品なのだが、途中でちょっとびっくりするようなとんでもなくショッキングが展開が数回ある。このあたりで全体の温かいトーンを保つため、わりと子どもの一生のトラウマになりそうなことをさらっと流して描いているのはちょっと気になった。父親のアダムも母親のイヴもちょっと子どもたちの親としてふさわしくないレベルのことをしているのだが、それでもけっこうお話が淡々と流れてしまう。最後のかなり暴力的な展開はブラック・ライヴズ・マターを意識したものなんだろうなと思う。