ビル・マーリーとアダム・ドライヴァーがジャームッシュの寵愛を競う話~『デッド・ドント・ダイ』(ネタバレあり)

 ジム・ジャームッシュの新作『デッド・ドント・ダイ』を見てきた。

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 アメリカの田舎町センターヴィルで警官をしているクリフ(ビル・マーリー)とロン(アダム・ドライヴァー)がゾンビアポカリプスに立ち向かう様子を描いたブラックコメディである。吸血鬼もの『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』を作ったジャームッシュが挑戦したゾンビコメディなのだが、ジャームッシュの過去作を初めとするいろんな映画とリンクしている上、ロンだけがかなり最初のほうから「自分は映画に出演しているのだ」ということを明確にしていて、なんかすごくメタ映画っぽい作りになっている。

 ティルダが『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』のイヴと『ゴースト・ドッグ』のゴースト・ドッグの両方の親戚の宇宙人みたいな役をやっているのをはじめとして、いろんな映画への目配せがある。ゾンビ版『コーヒー&シガレッツ』みたいな場面もあるし(ご丁寧にイギー・ポップがやってくれる)、キャストの大部分はジャームッシュと既に協働している役者やミュージシャンである。他の監督の映画への言及もあり、映画内でロメロをはじめとするいろんなゾンビ映画や、レッドフォード版『華麗なるギャツビー』の話などが出てくるし、アダム・ドライヴァーがやたら"This isn't gonna end well."「こりゃあ悪い終わり方になるぞ」と言うのは、アダムが出てるフランチャイズである『スター・ウォーズ』シリーズの決まり文句である"I have a bad feeling about this."「なんだかイヤな予感がする」への目配せなのではと思う。

 全体的にあんまり話が有機的につながっているわけではなく、突然のSFネタが出てくるところとか、子供たちの話が主筋にしっかり接続されてないところとか、わりと雑な作品ではある。この雑さの最たるものがクロエ・セヴィニー演じるミンディの役どころだ。せっかくクロエみたいないい女優さんを使っているのに、ミンディは警察でひとりだけパニクったり泣いたり吐いたりする女性警官という役で、かなりジェンダーステレオタイプまっしぐらに見える。

 たぶん全体的に話が雑なのはアダム・ドライヴァー(ジャームッシュの近作『パターソン』の主役)とビル・マーリー(ジャームッシュとは複数回仕事してて、主演をつとめた『ブロークン・フラワーズ』はカンヌで賞をもらった)がこの映画のスターだから…で、基本的にこの映画はビルとアダムがジャームッシュ監督の寵愛を競う話として見るのが楽しいんじゃないかと思う。アダム演じるロンが冒頭でいきなりラジオで流れる曲について「これ、テーマ曲だからね」とか言うのだが、この作品ではロンだけが最初から自分が映画の登場人物だということを明確にしている。一方でクリフはあくまでも映画の中の人らしく行動する…のだが、最後に台本のことで言い争いになり、結局二人とも外に出て行ってゾンビと英雄的に戦うことにする。それを生き残って眺めているのがこれまたジャームッシュの盟友たるトム・ウェイツが演じる世捨て人ボブ…ということで、ジャームッシュ世界では役者ではなくミュージシャンが生き残るというオチになっておしまいだ。