いや、まあ、完成してるから~『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(ネタバレあり)

 『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』を見てきた。

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 主人公はスランプ気味の監督トビー(アダム・ドライヴァー)である。スペインでドン・キホーテの話を撮影しているのだが、実は撮影現場はトビーが学生時代に撮った短編のドン・キホーテ映画のロケ地の村の近くだった。トビーは昔のロケ地に向かうが、そこでかつてドン・キホーテ役を演じた村人ハビエル(ジョナサン・プライス)が本当に自分をドン・キホーテだと信じて行動しているのを目撃する。サンチョ扱いされたトビーはハビエル/ドン・キホーテに付き合っていろいろな冒険をするが、最後はハビエルの死のきっかけを作ってしまう。トビーは結局、自分がドン・キホーテとして振る舞うようになる。

 『テリー・ギリアムドン・キホーテ』といえば、ガンズ・アンド・ローゼズの『チャイニーズ・デモクラシー』と並んでもう出ないだろうと言われていた作品で、そもそもこの映画が一応完成した形で見られると思っていなかった…ので、見られただけでビックリである。しかしながら、映画史上有名なディヴェロップメント・ヘル(開発地獄)に陥った作品だけあって、そんなにまとまりのいい内容ではない。そもそもテリー・ギリアムの映画はまとまりがよいというわけではないので、いつも通りにまとまりがない、とも言えるわけだが、そうは言っても制作過程のごたごたがそのまんま映像になったような作品である。主人公がスランプに陥った監督で最後は自分がドン・キホーテだと思い込むようになってしまうという時点で、このトビーはテリー・ギリアムの分身としか思えない。ギリアムのドン・キホーテへの執着がそのまんま生々しく表出したような映画である。

 

 そういうわけで、このこだわりはすごく生き生きと出てきているのだが、一方で脚本などはわりとメチャクチャである。トビーが拾った金貨は二度くらい吹っ飛んでいるはずなのになんで最後までけっこう残っている設定なのかとか、正直オルガ・キュリレンコをここに使う必要があるのかわからんとか、いろいろと疑問の残る作品だ。一番ひどいのはアンヘリカ(ジョアナ・リベイロ)の役どころだ。アンヘリカはトビーの映画に出た後、村に幻滅にして都会に出て行き、結局うまくいかなくてロシアのウォッカ長者の愛人になったという設定なのだが、虐待を受けまくっているのに全く出て行く気がなく、明らかにバタードウーマン症候群に陥っている女性である。ところがアンヘリカは自分の人生をメチャクチャにしたはずのトビーとよりを戻してしまい、最後はトビーと出て行ってドン・キホーテごっこに付き合ってやる。ひどい目にあいっぱなしであまりよいところがなく、大変男性に都合のいいキャラクターになっているし、あまり心理の描き方にも一貫性がないあたり、いかにも開発地獄の結果という感じのキャラだ。ちなみにこのジョアナ・リベイロは当初出演予定だったらしいヴァネッサ・パラディにすごく雰囲気が似ていて可愛らしいのだが、あまりぱっとしないキャラクターなのは残念である。

 

 しかしながら、アダム・ドライヴァージョナサン・プライスの演技はさすがに面白く、この2人の芝居を見ているだけでお金を払う価値はあると思う。なんだか完成しているのだろうか、まあしているんだよね…みたいな映画ではあるが、とにかく映画館にかかるところまで出来たということでよかった。