ゴールデン・イヤーズ、そして『イヴの総て』~『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(ネタバレあり)

 『フランシス・ハ』の監督、ノア・バームバックの新作『ヤング・アダルト・ニューヨーク』を見てきた。

 ニューヨークに住んでいる中年の夫婦、スランプに陥っているドキュメンタリー映画監督のジョシュ(ベン・スティラー)とプロデューサーのコーネリア(ナオミ・ワッツ)は、ひょんなことからジョシュのファンだというドキュメンタリー監督志望の若いジェイミー(アダム・ドライヴァー)と妻であるアイス職人ダービー(アマンダ・サイフリッド)に出会う。クリエイティヴで魅力的なジェイミーとダービーにすっかり夢中になるジョシュとコーネリアだったが… 

 これ、ネタバレしてしまうと『イヴの総て』の男性版である。面白いことをするためなら他人を平気で踏み台にする、21世紀のイヴ・ハリントンをアダム・ドライヴァーが演じており、はっきり言って『フォースの覚醒』のカイロ・レンよりずっとちゃんと悪役悪役している。別に親を殺したりするわけじゃないが、ナチュラルに人を騙したり利用したりして、しかも法は破らず切り抜けていく狡猾さがある。一方でナイーヴなところがあるジョシュの欠点も容赦なく描かれており、最後は主役の夫婦が成長して終わるので少し『イヴの総て』より明るいユーモアがある。

 ノア・バームバックらしく音楽のセンスがとても良く、『フランシス・ハ』同様デヴィッド・ボウイの曲をとても上手に使っている。最初と最後の場面では赤ん坊をバックに「ゴールデン・イヤーズ」が流れるのだが、これがとても気が利いている。また、『フランシス・ハ』を引き継いで女性の会話をかなり上手に撮っていると思う。この手の映画だとジョシュとジェイミーばかりに焦点があたってへたすりゃベン・スティラー無双みたいなことになりかねないのだが、本作ではコーネリアやダービーがちゃんと奥行きのある人物として描かれていて(ベクデル・テストをパスする会話が何度もある)、とくにコーネリアはナオミ・ワッツの中年女性としては若々しすぎる美しさがとても良い方向に働き、知的な大人の女性のはずなのになんかちょっとガキっぽいところが…みたいな欠点と魅力に満ちたキャラになっている。子持ちの中年夫婦をあまり理想化していないところも良く、不育症らしいコーネリアとジョシュに対して「子どもができれば大人になる」みたいなことを言っちゃうあたりはかなり無神経だなと思う一方、終盤でどうやら育児疲れでボロボロらしくてなかなか他人に気が回ってないみたいだということもわかって描き方に深みがある。