モノクロの恋物語~『パリ、13区』(試写、ネタバレ)

試写試写 『パリ、13区』を試写で見た。ジャック・オディアール監督で、脚本にはセリーヌ・シアマがかかわっている。原作はエイドリアン・トミネのグラフィックノベルである。

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 シアンスポ卒なのだがコールセンターで働いている台湾系フランス人のエミリー(ルーシー・チャン)、そのルームメイトでアフリカ系の教員でアグレガシオンを目指しているカミーユ(マキタ・サンバ)、成人学生としてソルボンヌ大学に復学しようとしたところ、ポルノスターのアンバー・スウィート(ジェニー・ベス)に間違えられていじめのターゲットになってしまったノラ(ノエミ・メルラン)がメインの登場人物である。エミリーはルームメイトのカミーユとセックスするようになり、やがて好きになるが、カミーユは想いを返してくれない。ノラはカミーユと同じ不動産業者で働き始めて付き合うようになるが、一方でポルノサイトを介してアンバーと親しくなる。

 モノクロのセンスのいい画面でパリ13区(研究者にはお馴染みの国立図書館フランソワ・ミッテラン館はここにある)をとらえており、観光客があまり行かないような場所がたくさん出てくる。このあたりにはエミリーのようなアジア系がたくさん住んでいる地域もあるそうだ。地元に住んだことのない人はあまりよく知らないような生活の場所を生き生きと撮っており、生活感はあるがオシャレだ。

 お話といいモノクロの映像といい、全体的にスパイク・リーの『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』(映画版)、ノア・バームバックの『フランシス・ハ』、ウディ・アレンの『マンハッタン』などニューヨークのアートハウス映画を思わせるところがたくさんある。とくにセックス大好きでユーモアのセンスがある面白い女性だがどことなく子どもっぽいところもあるエミリーはそのまんまアメリカのインディーズ映画に出てきそうな感じだが、台湾系のヒロインがこういう感じだというのはあまりステレオタイプな感じがしなくて良い(高学歴なのに低収入の仕事をしていて家族となんだかしっくりいかないというのは『シャン・チー』のケイティとちょっと設定が似ている)。一方でみんなけっこう恋愛とセックスにエネルギーを注いでいるところはフランス映画らしく、エリック・ロメールとか、レオス・カラックスの初期作なんかを思わせるところもある。

 全体的にエミリーのキャラクターや、ノラとアンバーのクィアな出会いはけっこうしっかり描かれていて面白い。ノラとアンバーがどんどん親しくなっていく様子はすごくセリーヌ・シアマっぽいと思ったのだが、ただけっこう理想化されているというか、ひどくつらいめにあったノラが、非常に地に足のついた性格であるアンバーとの出会いでどんどん人生が面白い方向に…というのはちょっと都合が良すぎると思わなくもない。一方でカミーユと吃音症の妹妹エポニーヌ(カミーユ・レオン=フュシアン)の関係はもっと丁寧に描いてもよかったのではという気がする。このあたりは短編をつないだみたいな構成のせいで時間をとれなかったところなのかなと思った。