パリ旅行(12)お昼ご飯とヴィクトル・ユゴー資料館

 最終日お昼は友人とマレ地区の人気カフェ、Le Loir dans la Théièreへ。本日の定食ということでスパイシーチキンのポテトグラタン添えを注文。

 鶏肉はちょっとカレー風味でさっぱりしていて美味しい。グラタンもイモにシンプルなベシャメルソースをはさんでオーヴンで焼いただけだと思われるのにとても美味しい。ロンドンではありえないよ…

 その後、ヴォージュ広場を散策。昔宮殿があったとかでオシャレな広場である。

 ヴォージュ広場脇にあるヴィクトル・ユーゴーの家へ。




 ふつうに魅力のある古民家にユーゴーの史料が大挙展示。諷刺画からパリコミューンのパンフレット、ユーゴーの所持品、ユーゴー一族を描いた絵、ロマン主義っぽい家具や調度など充実。オリエンタルな陶器ルームなども。

デジタルヒューマニティ学科特別講義"Integrated Information Access and Analysis of Japanese Humanities Databases"

 今日はデジタルヒューマニティ学科の特別講義、"Integrated Information Access and Analysis of Japanese Humanities Databases"をきいてきた。立命館の前田亮先生が、平安時代のテキストのデジタル可視化と浮世絵データベース作りについて講義するというもの。詳細はツダってtogetterにまとめた。

キングズカレッジロンドンデジタルヒューマニティ学科特別講義ノート Prof.Maeda Akira, "Integrated Information Access and Analysis of Japanese Humanities Databases"

 しかし、日本の古典は全くの専門外だし、データベースについては図書館情報学で少し習った程度で全くの素人なのでよくわからないところも多かった。とくにN-gramとか…


こんなんうちが見たいロルカじゃない!ゲイト座『イェルマ』

 ゲイト座でフェデリコ・ガルシア・ロルカの有名な戯曲『イェルマ』を見てきた。ロルカは私のお気に入りの劇作家の一人なのだがお芝居を観るのは初めてだったので楽しみにしていた…ものの、全然ダメだったと思う。うちは古典の大胆な翻案は好きだしこの間同じゲイト座でやった『エレクトラ』の翻案とかは良かったと思うのだが、今回の翻案版『イェルマ』を見て初めて「完成された名作をいじるな!!」とブチキレそうになった。

 ロルカは日本でも一部熱狂的なファンがいるので本自体は読まれているはずだと思うのだが(一般受けはしない気がするけどオタクを惹きつけそうな作風)、戯曲はなんかやたら反リアリズム的でふつうの舞台ではかなり上演しづらい感じである。『イェルマ』は『血の婚礼』(←たぶんこれが一番上演されてると思う)と『ベルナルダ・アルバの家』とあわせてロルカの三大悲劇と呼ばれているもので、どれもスペイン(ロルカは「プロのアンダルシア人」と言われるくらい意識的に地方色を取り込もうとしてたらしい)の民俗をふんだんにとりこんだ血みどろの悲劇である。『イェルマ』はアンダルシアのどこともしれない田舎を舞台に、子供のできない女性イェルマ(「不毛」という意味らしい)が怨念積もり積もって夫を殺してしまうまでを描いた作品である。

 で、私はロルカの戯曲の現代人にとって非常に切実に感じられそうな政治的問題(『イェルマ』だとジェンダー、カトリシズム、村社会など)をまるっきり前近代的な神話ふうの枠組みでシンボリックに提示するところとか、あとわざとらしいまでに豊かなアンダルシアの地方色を盛り込んでいるわりにはそういう地方社会の伝統に基づく歪みに容赦なく切り込んでいるところなんかが好きなのだが、今回のアンソニー・ウェイによる翻案はもとのテキストの反リアリズム的な場面をばりばり刈り込んで一方で視覚的にショッキングな場面(舞台で妊婦が放尿したりつわりで吐いたりとか)や心理描写っぽい場面を増やしており、原作とは全然別物って感じがした。で、こういうわかりやすい芝居が好きな人もいる…とは思うのだが、私にとっては絶妙につまらんかった。原作の持っている、お行儀の良い近代劇の作法に従わないラディカルな様式美をなんか超ちゃんとした近代心理劇に落とし込んで矮小化している感じで、もとの戯曲にあるギリシア悲劇ふうな独特の雰囲気が全然なくなっている。あと地方色も半端で、スペインらしいところは全くないのだが別にイングランドの特定の田舎とかにしているわけでもないので(なぜかマリアがイェルマ夫妻に比べて異常に訛りが激しかったり、フアンが『欲望という名の電車』のスタンリーみたいだったり、まじない女のドロレスがブードゥー教っぽかったり、ちょっとどこを想定しているのかわからん)、非常に漠然とした話に見えたな…

 あと、視覚的にショッキングな描写も疑問。ゲイト座は額縁舞台じゃなくて平戸間を舞台にしてその三方を囲むように椅子を設置してあるのだが(小さいハコとしてはかなり素晴らしい設計)、うちは正面真ん中だったせいでどまん前で妊婦役の女優がバケツに放尿しはじめてびびった、まあびびったまではよかったものの、あまりにも距離が近かったせいでチューブに水を入れたパックを仕込んでるのが見えたのは興ざめだったかな…しかしながら『イェルマ』のラディカルさはこういう表層的なショッキング描写にはないはずだと思うので、かなりこういう演出は疑問。

 と、いうわけで、初めて見たロルカの芝居はなんか「久々にすげーつまらんかったな」という感じだったのでがっかり。しかしロルカの芝居は歌舞劇ふうに上演するほうがいいのではないかという気がするので、能とかでやったらどうかな…似合うと思うんだけどな…

 


 

ヨーク大学"Renaissance Reincarnations"学会CFP

 もうひとつCFP。

Renaissance Reincarnations 

 3/17にヨーク大学にて開催、アブストは1/20締め切り。初期近代の実在の人物をテーマにした現代の芸術作品を主題とする発表を募集中。このカテゴリに入るものなら『ダ・ヴィンチ・コード』とか『ポカホンタス』とか、何でも歓迎だそうです。


ニュー・バーレスク研究のレビュー論文などが出ます

 いくつか告知があります。まず、次号の『シアターアーツ』にニュー・バーレスクの研究動向に関する紹介論文がのります。今のところ日本初のニュー・バーレスクについてのまとまった学術論文になる予定です。出るのは12月末頃だろうと思います。


 あと、丸善から出る『科学・技術・倫理百科事典』の「科学と文学」の項目の翻訳を担当しました。これは来年1月くらいに出る予定ですがあり得ないほど高額です。訳者一覧はなんか見たことあるような名前ばっかりですね。


 それからイタリアのミメシスという小さい出版社から去年シチリアであったクィアクロッシングズ学会のプロシーディングズが出ます。年内に出るとかいう話だったのですが、イタリアなんで(?!)いつ出るのかちょっとよくわかりません。


エディンバラ旅日記(14)スコットランド国立図書館(禁書展)

 さて、この旅は一応調査旅行なのでスコットランド国立図書館にも行ってきた。

 …ところが、ここでの調査は全然うまくいかず。しょうがないので展覧会だけ見て帰る。

 図書館では禁書展っていうのをやっていたのだが、これは古今東西の検閲された本をテーマにしたもので大変面白かった。19世紀くらいののぞきポルノから最近の『ハリー・ポッター』シリーズまでいろいろな禁書が展示されている。とくに面白かったのはサラ・ペイリンが図書館からのしめ出しを試みたという噂のある『Daddy's Roommate』という絵本。これは両親が離婚して父親がゲイの連れ合いと住むようになった男の子の話である。どうってことない家庭ものの絵本のように思えるのだが、ゲイの家庭を描いているということで子供に読ませないようにする動きがあったそうだ。

 また、『The Rabbits' Wedding』という絵本は異人種間の結婚を奨励しているとしてアメリカ南部でものすごい抗議を受けたのだそうだ。

 …なんかここまでくるともう検閲するほうの神経がちょっと理解できないのだが…


 あと全然知らなかったのだが、映画化されたAngus, Thongs and Full-Frontal Snogging: Confessions of Georgia Nicolson(『ジョージアの日記』シリーズ)とかThe Kite Runner(『君のためなら千回でも』)も検閲に近い行為の対象となったそうだ。『ハリー・ポッター』その他の魔法もの児童書についてはいったいなんでそんなに抗議されてるのか非キリスト教徒にはよくわからない(というかクリスチャンでも大部分はよくわからないだろう)のだが、とくに児童書の分野においては検閲類似行為は今でもかなりあるようで、大人向けの図書とは基準がかなり違うのが興味深い。


チェコ三日目(2)カフカの家

 さて、都心部に戻ってカフカの生家をたずねてみる。
 カフカが通り…というか広場の名前に!

 ここにカフカの家がある。

 中にちょっとした展示がある。ただ、少ない割に料金が高い。


 こういう感じの写真を用いた神経症的な展示。あと、カフカユダヤ的バックグラウンドを強調した展示が多い(亡くなる前にシオニストの女の子と付き合ってて、パレスチナに住みたがってたとか)。グッズにもなんかみんなダビデの星とかがついてて、かわいいポーチとかみやげに買って帰ろうかとも思ったのだが敬虔な仏教徒であるうちのばあちゃんには不向きすぎると思いやめた。