ステージで煙草をすうバンドと、煙草をすわないバンドの違いについて

 今朝、「マンガやアニメでの喫煙シーンの是非」とかいう記事を見た。日本禁煙学会が『NANA』のバンドメンバーの喫煙場面に文句をつけたとかいう話(少し古い話である)で、まあこの禁煙学会の要請自体はバカげていると思う(以前、コンドームの使用について同じような要請をした学会はあったはずで、あれは特に何かひとつの作品をターゲットにしたわけじゃなくて業界全体に対する要請だった気がする)。


 …で、私は『NANA』を読んだことがないので何とも言えないのだが(『アメリカズ・スウィート・ハート』のジャケットをあんなにしたヤツの漫画なんか読むもんか)、当該エントリの「『NANA』の登場人物たちが揃いも揃って非喫煙者であったらきわめて不自然なのではないか」という内容を読んで、「ポリスみたいなロックバンドだったらそれでもおかしくなかろう」と思った(ポリスが喫煙するかどうかは知らないけど、スティングはパンクバンドとしては「歌声重視」系のリードヴォーカルだし、なんかあのバンドは自己管理が厳しそうなイメージが)。たしかウータン・クランのメンバーは、ジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』の中で、タバコもコーヒーもやらない健康志向だっていう話をしてた気がするので、自己管理が厳しいイメージ、あるいはナチュラルなイメージで売ってるロックバンドだったら別に全員喫煙してなくても描写としてはOKだと思う(『NANA』のバンドがそうだかどうかは知らない)。


 …で、この機にちょっとロックバンドと喫煙の関係について前々から気になっていたことを書きたい。世の中には二種類のバンドがいる。ステージ上で喫煙するミュージシャンがいるバンドと、そういうミュージシャンがいないバンドである。


 ステージ上で喫煙するバンドとしては、まずローリング・ストーンズである。

 歌うときまでタバコ持ってるキース・リチャーズの'You Got the Silver'(『シャイン・ア・ライト』より)。禁煙運動に抗議するためタバコを食ったという噂すらある(そういう抗議の手法は結構正しい…ような気がする。要は「体に悪くてもそんなこと知るか」って意味でしょ)。


 それからレッド・ツェッペリンジミー・ペイジはしょっちゅうステージですってるが、ネブワースライブの'Sick Again'とか、機関車のように煙を吐きながらすげえソロを繰り出しておられる。


 あとは元ガンズ、ヴェルヴェット・リヴォルヴァーのスラッシュ。ガンズ時代からこんな感じで、あまりにいつも煙草をすってるもんでYouTubeに「弘法も筆の誤り」みたいな感じで「スラッシュが煙草を落とす」という動画があがってるしまつ。




 …で、こういうバンドに欠けてるものが何かというと、ヴォーカルが一声豪華主義でコーラスにあまり力が入ってないということである。ストーンズミック・ジャガーツェッペリンロバート・プラント、ガンズはアクセル・ローズという稀有な歌唱能力を持ったミュージシャンをリードヴォーカルに擁しているので、バックでギター弾いてるヤツはヘタに歌わなくても十分サウンドが成り立つ。もちろんどのバンドもコーラスに力を入れた曲を作っていないことはないし、最初の動画みたいにギタリストがヴォーカルをとる曲もあるのだが、デフォルトでハモりをたくさん取り入れた曲を作るバンドではない。つまりこれは、ギタリストがタバコをすってて口がふさがってても十分演奏ができるということである。



 一方、コーラスが曲の大部分をしめるようなバンドというのはステージで煙草をすわない。当たり前の話だが、バンドの全員がいつでも口をあけとけるようにしておかないと、ライブ演奏上大変都合が悪いからである。クイーンなんかはフレディだけでも全くヴォーカルが成り立つのだが、ギタリストのブライアン・メイが煙草嫌いなもんでステージでタバコをすうようなことは絶対ないし、そのせいだかどうだか知らないがコーラスにはかなり力が入っている。ストーンズの好敵手だったビートルズも煙草とかステージですわないが、初期からコーラスが重要だった。ライブでは一本のマイクでジョンとポールがハモるのを見て「おネエっぽい」などとバカにする人もいたらしいのだが(女性やゲイのファンはかえってそのほうが見た目に美しいと思ったようだが)、おネエっぽかろうがそうでなかろうが、ああいうふうに接近して互いの声が聞こえる位置に立って歌うというのはやっぱりハモり重視の表れだろうし、その結果としてできあがったサウンドはこだわりの産物である。このほか、プライベートではいつもラリっていたビーチボーイズ(あれ、ラリっていたのは一人だけだっけ)もすごくコーラス重視で、ステージでは喫煙しないと思う。


 …と、いうことで、実は私は「ステージ上で喫煙するメンバーがいるかいないかである程度サウンドの傾向が把握できる」という仮説をたてている。つまり、喫煙するメンバーがいるバンドはコーラスを導入する割合が低くなるというものである。ただ、これはどっちが原因でどっちが結果なのかはよくわからない。つまり、

・飛び抜けたヴォーカルがいる→そいつだけに歌わせればいい→楽器だけ演奏するメンバーは喫煙できるからステージでもすってる

 という順序なのか、

・ヘビースモーカーでいつも煙草を手放せない奏者がいる→ステージで自分が歌うとかあまり想定してない→コーラスを使う曲を書かない


 という順序なのかは不明である。ひょっとしたら、コーラス重視のバンドはみんなノドが大事だから酒や煙草を無意識に控えているとかいう傾向もあるかもしれんと思うのだが、それはかなりあやしいと思う(だってロックバンドだもん!上にあげたバンドはコーラスの有無にかかわらず、どれもみんな過去に何らかの薬物を使用したことがあるはずである)。


 ただし、もちろん例外もある。元デュラン・デュランアンディ・テイラーはヘビースモーカーだしステージで喫煙するが、デュラン・デュランは比較的ハモり重視なこともある(ヴォーカルのサイモン・ル・ボンがすんごい甘い声なので、これ一本で結構どの曲もなんとかなることはなんとかなるのだが)。



 …まあ、ロックには煙草の歌もいっぱいあるわけで、強引にまとめるために今日は煙草の歌を二曲貼っておしまいに…(ちなみにみんな勘違いしているようですが、ここの管理人は完全な非喫煙者です。ドラッグはカフェインと恋愛しかやりません)。