フェミニズムと英文学〜村岡恵理『アンのゆりかご−村岡花子の生涯』

 村岡恵理『アンのゆりかご−村岡花子の生涯』(新潮社、2008)を読んだ。朝ドラの原案ということで文庫本が今すごく売れているらしい。

アンのゆりかご―村岡花子の生涯 (新潮文庫)
村岡 恵理
新潮社 (2011-08-28)
売り上げランキング: 119

 私は朝ドラは見ておらず(部屋にテレビが無い)、少なくとも翻訳者とか研究者の間ではものすごく評判が悪いらしい…のだが、原作が手元にあって(たしか先生の研究室に複本が届いたとかで一冊無料でもらったんだと思う)、途中まで読んだところで家において渡英してしまった覚えがあるので、この際ちゃんと通読しようと思って読んでみた。本人の孫娘が書いたそうで、淡々と事実を追う語り口だが、それでも村岡花子本人の生涯がけっこう波乱に富んでいるので、かえってくどい感じがなく面白く読めた。

 興味深いのは、村岡花子が当時のフェミニズム運動、つまり婦人参政権などの運動に関わっていたことである。『赤毛のアン』シリーズは私も子ども頃夢中になって読んだが、創作をやめて家庭に入る女性の話でそんなに先進的な感じはない作品なんだけれども、訳者の村岡のほうはやはり手に職があって仕事と家庭を両立したいという気持ちがあっていろいろな活動に加わっていたのかと思うと、戦前の職業婦人の切迫した状況が思いやられる。村岡花子は英文学の翻訳者なので、戦時中の英文学や英語に対する抑圧にはもちろん反対であったわけだが、それでも女性参政権のために戦争協力をしていたようで、このあたりは日本のフェミニズム史上、最も問題があり、かつ最も悲しい歴史と言えるところだろうと思う。

 一方で少し下世話だが花子本人の略奪婚騒動や、親しい友人であったらしい柳原白蓮のスキャンダルなどもなかなか読んでいて面白い。白蓮のほうは当時の男性中心主義的な家制度と、型にはまらない激しい性格だった白蓮の気性が激突したということで、むしろ今からするとさわやかめのスキャンダル(?!)みたいに見えるのだが、一方で花子とのちに夫となった儆三のほうは、男のほうが病気の妻と不仲になってしまい、そこに若くて仕事ができる女がやってきて不倫…とかいう、今にも小町で炎上しそうな泥沼である。このあたりはあっさりした書き方のせいでむしろ読みやすくなっているかもしれない。

 村岡花子はもちろん英語はできたのだが、ほとんど洋行したことがなく、最後の洋行でもプリンスエドワード島までは足をのばさなかったそうだ。これについては理由も述べられているのだが、まあこのあたりの理由に関しては私は全然、共感できなかったなぁ…好みの問題だと思うが。