題名からは想像しづらいブラックユーモアストーリー〜『トッド・ソロンズの子犬物語』(ネタバレあり)

トッド・ソロンズの子犬物語』を見た。トッド・ソロンズ監督作ということで相当ブラックな展開であり、このハートフルな日本語タイトルは冗談なのか詐欺なのか…

 ダックスフントが4軒の家を渡り歩く様子を描いたオムニバスである。最初はガン患者の少年レミ(キートン・ナイジェル・クック)の家にもらわれていくが、レミがグラノラを食べさせたせいでひどい下痢になってしまい、安楽死させられることになる。ところが安楽死を委託された動物病院につとめていたドーン・ウィーナー(グレタ・ガーウィグ、ソロンズの『ウェルカム・トゥ・ザ・ドールハウス』の登場人物なのだが、この人既に死んでいる設定では…?)がかわいそうに思ってダックスフントを助ける(ダックスフントは英語で「ウィーナードッグ」であり、この映画の原題のWiener-Dogなので、名前が同じということになる)。ドーンは幼なじみでヤク中のブランドン(キーラン・カルキン、やはり『ウェルカム・トゥ・ザ・ドールハウス』の登場人物)と再会し、一緒にオハイオに住むブランドンのダウン症の弟、トミーと妻のエイプリルを訪問する。トミーとエイプリルがあまりにもダックスフントを気に入ったため、ドーンは犬を2人にプレゼントする。
 この後でインターミッションが入り、終わるとこの犬はフィルムスクールで脚本を教えている売れない脚本家、シュメルツ(ダニー・デヴィート)の犬になっている。シュメルツは仕事がまったくうまくいかないため、この犬に爆薬をくくりつけて大学爆破を計画するが、すんでのところで失敗。犬は今度は富裕な盲目の老女(エレン・バースティン)にひきとられ、「キャンサー」という名前をつけられるが、車に轢かれて…

 ひとつひとつの話はブラックユーモアたっぷりでとても面白い。最初のエピソードで犬の汚い下痢をなぜかとても綺麗なドビュッシーの「月の光」をバックに撮るアホみたいなシークエンスとか、最後に何度も犬が車に轢かれるグロいカットなどは大変ブラックである。話はどれも暗いトーンで、唯一、ふたつめのドーンとブランドンの再会のエピソードだけはつらい中にもちょっと未来志向なところがあるのだが、他はけっこう死や破壊を思わせる終わり方をする。とくにブラックさが凄いのは第一エピソードで、フランス人の母親ダイアナ(ジュリー・デルピー)が作り話をして息子のレミに犬の去勢を納得させようとするところでポロっと人種偏見をのぞかせてしまうところから、ただの下痢で犬に安楽死をさせようとするところまで、大人のひどい身勝手さが際立つエピソードである。第三エピソードはフィルムスクールは本当に役に立つのだろうか…ということを救いのないタッチで描いている。最後のエピソードでは轢かれた犬が前衛アーティスト、ファンタジーによって剝製ロボットにさせられるのだが、ここは現代アートをものすごく痛烈に諷刺している。

 こんなわけでそれぞれの話は面白いのだが、インターミッションの後からは犬がどうやってその家にもらわれてきたのかというつなぎの展開がなくなるところがあまり良くない。このつなぎをちゃんと描かないと、オムニバスとしての面白みが減ると思う。また、最後の四回くらい車に轢かれた犬が剝製になるというところもちょっと強引かな…なお、この映画はベクデル・テストはパスしない。女性同士で話すところはけっこうあるがたいてい男性がからんでいるし、最後はおばあちゃんが多数の女性と話すところがあるのだが、ここは「昔の自分」と対話している設定なので基本、独り言だからである。