ティム・バートン映画の舞台版〜『ビッグ・フィッシュ』

 ミュージカル『ビッグ・フィッシュ』を見てきた。白井晃演出で、ティム・バートンが2003年に同名映画と原作小説をミュージカル化したものである。もとになった映画はティム・バートンの監督作の中でも私が一番好きな作品で、父と子の和解に物語の力というテーマを絡めたものである。
 話はだいたい映画と同じような感じで、話の名人で目立ちたがり屋のエドワード(川平慈英)と、父親の話は嘘ばかりだと疑い辟易している真面目な息子ウィル(浦井健治)の葛藤と和解を描いている。ウィルが父親の秘密を探り、最後は父の死に際して物語の力を理解するというオチになっている。
 ティム・バートンの映画版はとにかく南部ゴシック風の世界をキッチュに見せるヴィジュアルが綺麗だったのだが、舞台版も照明などを巧みに使って想像力の世界を見せている。水や太陽の光、夜の森など自然の様子を上手にメリハリをつけながら照明で見せているのがいい。映画版でもクライマックスのひとつだった黄色い水仙の花畑の場面は、舞台で見るとさすがに迫力がある(ちょっと蜷川版『トロイラスとクレシダ』のひまわり畑の場面を思い出した)。一方、エドワードの一見ホラ話ふうの物語に出てきた人物が、エドワードの話に比べるとちょっとスケールダウンした姿で本当にお葬式にやってくるというラストは、映画のほうが効果的だった気がする。これを舞台でやると一度にたくさんの人が出てくるので、あっけなく終わってしまってちょっと盛り上げるに欠けるように思った。
 映画版のアルバート・フィニーはいかにも昔は色男だったという雰囲気なのだが、舞台版のエドワードを演じる川平慈英はちょっとウザいくらいハイテンションなおじちゃまで、また別の味わいがある。映画版のエドワードは年をとってからはフィニー、若い頃はユアン・マクレガーということで役者が変わるのだが、舞台版では川平が両方の訳を演じていて、過去の回想と現在が切れ目無くつながっているのが良い。浦井健治はいかにも真面目な若者という感じで、最初は実にお堅い雰囲気のウィルにぴったりだ。