アメリカでは続々上演中止〜『ブロードウェイと銃弾』

 日生劇場で『ブロードウェイと銃弾』を見てきた。ウディ・アレンの映画に基づくミュージカルである。

 舞台は禁酒法時代のニューヨークである。主人公である売れない劇作家、デイヴィッド(浦井健治)は、ひょんなことから自分の愛人をスターにしたいギャングのボスの出資を受けて自作の芝居を上演できるようになる。落ち目の大女優ヘレン(前田美波里)など、優秀な役者陣を雇って準備を始めるが、精神科医役を演じるボスの愛人オリーヴ(平野綾)があまりにも大根でろくに稽古がすすまない。ところがオリーヴの用心棒として派遣されていたギャングのメンバー、チーチ(城田優)の異常に的確なコメントで台本がどんどん改善され、チーチはどんどん芝居に情熱を傾けるようになって…

 全体としてはよくできた楽しいミュージカルだ。浦井健治演じるデイヴィッドと、城田優演じるチーチの息もぴったりだし、セットデザインとか、踊りでギャングの暗躍を表現する演出なども面白い。笑わせるところも利いている。ただ、普通に楽しいという以上の特徴はそんなにないかなーという気もする。楽曲については既存の曲をけっこう使っていて、ちょっとジュークボックスミュージカルっぽい。

 ただ、内容よりもむしろこの作品についてはアメリカで起こっていることとのかかわりのほうが気になってしまうということもある。MeToo運動でウディ・アレン性的虐待疑惑が再び注目を集めていることがあり、そのため『ブロードウェイと銃弾』の上演はアメリカでは軒並み中止になっているそうだ。ウディ・アレンの行動(パートナーの養女に手を出して結婚)からして彼が家庭でろくでもないのは間違いないと思うが、子どもの性的虐待については病院の調査で証拠不十分となっており、それ以外に性犯罪や、仕事の関係でのセクハラに関する告発はない。今ウディ・アレンの芝居を上演したくないとアメリカの劇場が考えるのは商業的にも理解できるが、一方で法的に立証されていないことが理由で、とくに内容的に性犯罪や未成年者との性交渉を扱っていないような作品まで上映や教育研究が難しくなるのはあまり公正とは言えないと思う。