ちょっとダイジェスト版みたいだが、演出は悪くない〜スタジオライフ『Dracula〜The Point of No Return』

 スタジオライフ『Dracula〜The Point of No Return』を見てきた。言わずと知れたブラム・ストーカーの古典ホラーの舞台化で、数回目の再演ということだ。スタジオライフなのでオールメール、ドラキュラとジョナサンはダブルキャストで日によって交替する。私が見た日は松本慎也がドラキュラ、曽世海司がジョナサンだった。

 さすがにストーカーの原作を2時間5分に刈り込むとダイジェスト版みたいになるし、また19世紀末のニューメディアである蝋管型の蓄音機なんかを駆使したメディア小説っぽいところはだいたいなくなっている(速記は少しだけ出てくる)。それでも前回スタジオライフがやってた『大いなる遺産』に比べると、かなりすっきりしたわかりやすい古典の翻案台本になってると思った。

 演技は多少でこぼこもあり、若手は慣れてないかもと思うところもあったが、主演陣は良かったと思う。松本ドラキュラはたいへんな美男子なのだが、原作に比べるとあまりにもヤンデレで、ちょっと気の毒になるくらいジョナサンにぞっこん惚れており、常識人で既に恋人もいる曽世ジョナサンが、うろたえつつもなんかただならぬ雰囲気にのまれてしばらく屋敷にとどまってしまうのもわかる感じになっていた。宇佐見輝演じるミナは可愛くてはきはきしているし、ルーシー(若林健吾)との女同士のやりとりに親密感があるのもいい。キンシー、セワード、アーサーの友情を強調する雰囲気はわりとうまく機能しており、ハンサムなだけでサッパリ役に立たなかったアーサーがルーシーの死後の安寧のため最後に勇気を出す展開は良かったと思う。あと、魔女3を演じた伊藤清之がとても可愛らしかった。あの魔女の感じで『マクベス』やったらどうだろうかと思った。

 一番興味深かったのは、心臓に杭を打ち込む演出である。吸血鬼となってしまったルーシーの死後の安寧のため、アーサーが勇気を出して棺に入っている亡き恋人の心臓に清めの杭を打ち込もうとするのだが、劇場で、しかも棺にぶつけて派手な音を立てながらこれをやると、まねごとだとわかっていてもけっこう怖い。さらに若林ルーシーがこれでもかというほど断末魔の叫びをあげるので、なかなかホラーらしい演出になっていたと思う。心臓に杭を打ち込むなんていう殺害方法は舞台であまり見られるとは思えないので、これだけでも見る価値あるかもと思う。