終盤はボディホラーのような怖さ~『あのこと』

 オードレイ・ディヴァイン監督・脚本『あのこと』を見てきた。ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの小説が原作である。

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 舞台は1960年代のフランスの大学都市である。ワーキングクラスの娘である成績優秀なアンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)はひょんなことから妊娠してしまう。将来のために大学を卒業しなければならないアンヌにとって出産はあり得ない選択だが、当時のフランスでは中絶が違法である。アンヌはあらゆる手立てでなんとか中絶にアクセスしようとする。

 中絶が違法な時代を描いた作品という点では『4ヶ月、3週と2日』(ルーマニア)や『ヴェラ・ドレイク』(イギリス)などを思わせるところもあり、また最近の映画だと『17歳の瞳に映る世界』にちょっと似ている。フランスはなんだかんだでカトリックの国なので60年代でもわりと保守的で、アンヌが女友達からも支援を得られなかったり、結局中絶へのアクセスが提供されるのが女好きの男子を通じてだったりするところがリアルである。終盤の中絶に一度失敗して再度もぐりの手術を受けなければならなくなるあたりは正直、ボディホラーみたいに怖い。けっこう見ていてつらい映画ではあるが、リアルでとてもよくできた作品だった。