お菓子をめぐるあれこれ~『ファースト・カウ』(ネタバレあり)

 ケリー・ライカート監督『ファースト・カウ』を見た。

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 1820年代のオレゴンが舞台である。料理人のクッキー(ジョン・マガロ)と、もめ事を起こして逃走中の中国系移民キング・ルー(オリオン・リー)はひょんなことから出会って意気投合する。2人は仲買商(トビー・ジョーンズ)がこの地域に初めて導入した雌牛のミルクをくすね、クッキーが作ったお菓子で一攫千金を狙う。ところがミルクを盗まれている仲買商がそれに気付かないまま、クッキーのお菓子を気に入ってしまう。

  開拓地の砦でお菓子を売って儲けようというのはなかなか面白い発想…というか、あんまりそういうことをする人はいないかもしれないが、娯楽の少ない厳しい土地では甘いものが飛ぶように売れてもおかしくないので、いかにもありそうだと思った。ただ、一攫千金のサクセスコメディには全くならず、最後は泥棒がバレ、ケガしたクッキーの脇にキング・ルーが寄り添って眠るところで終わる。キング・ルーがここでお金の袋を見て、おそらくちょっとクッキーを置いて逃げようか…ということが頭をかすめたものの、そのままクッキーと一緒にいると決めるあたりはなかなか切ない。そしてこの最後の場面が最初の枠につながり、どうもこの話はさらに切ない終わり方になったらしいことがわかる。クッキーが牛に優しく話しかける場面なども含めて、2人の男性の優しい感情を細やかに描いた作品である。