本日の日経に『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』のレビューを書きました。
レオス・カラックス4Kリバイバルの試写で『ボーイ・ミーツ・ガール』(1983)を久しぶりに見た。ものすごく前に一度見たきりなのでだいぶ内容を忘れていた…のだが、「そういえばこんなヘンな映画だったな…」ということを思い出した。いろいろ面白いところはあるのだが、『ポンヌフの恋人』などに比べるとちょっと荒削りなところはあるなと思った。
新橋演舞場で『初春大歌舞伎』昼の部を見てきた。演目は『操り三番叟』『鳴神』『一谷嫩軍記 熊谷陣屋』『寿初春仕初口上 市川團十郎「にらみ」相勤め申し候』である。
『操り三番叟』は新春の演目で、人形を模した踊りを行うものである。まあおめでたい演目だ。
『鳴神』は今回私がお目当てにしていた演目である。鳴神上人(中村福之助)が朝廷とのいさかいで竜神を封じてしまったために雨が降らなくなり、それを案じた朝廷が宮中一の美女である雲の絶間姫(廣松)を送り込んで、色仕掛けで鳴神から雨を降らす方法を聞き出そうとする…というような内容である。雷の効果音に興味があったので見に行ったのだが、けっこうちゃんとしたスパイアクションで面白かった。気象関係の効果音も良かったが、私が興味がある「雷車」という道具じたいは見えなかったので、そこはそのうちどうにかして現物が見られたらなぁ…と思う。
『一谷嫩軍記 熊谷陣屋』は、正直、あまりお話が面白いと思えなかった。熊谷直実(市川團十郎)が実子を犠牲に…という話なのだが、たぶんそもそも私は義のために実子を身代わりに…みたいな展開があまりにも封建的で好きではないんだろうと思う。
最後の『寿初春仕初口上 市川團十郎「にらみ」相勤め申し候』は、新春に團十郎ににらまれると縁起がいいそうで、その伝統にのっとった口上と「にらみ」である。眼力が悪いものを遠ざけるみたいな信仰があるのか…と思うとちょっと面白い。私は全く信心がないのだが、ヒトが何に力を感じるのかは面白いと思っており、非常に舞台芸術の歴史じたいに関係していることがらだと思っているので、舞台で何かすると厄払いになるみたいな考え方は役者のパフォーマンスの力がどう受容されてきたのか考える上で大変興味深いと思う。
アレックス・ガーランド、レイ・メンドーザ監督『ウォーフェア 戦地最前線』を試写で見た。
2006年にイラクのラマディで米軍特殊部隊と地元の勢力が衝突した時の様子を、実際にこの時従軍していたメンドーザが監督をつとめて映画化した作品である。メンドーザをはじめとして、この時従軍していた実際の米軍兵士が全面協力し、その記憶に頼って脚本を作っているそうだ。1時間半くらいでほぼリアルタイムの展開で、最初は静かに見張りをしていたのに、何も気付かないうちにものすごく状況が悪化し、爆発のせいで負傷者が出て…という展開を淡々とリアルに描く。
とにかくストレスフルな作品で、米軍が全然かっこよくなく、描写が現実的である。まず米軍が何の罪もない一般庶民の家庭を急襲して民家を強制的に接収し、家の住人を閉じ込めて即席の見張り詰め所みたいなものを作るという非人道的なことをするところから始まる。この家は最後までにひどく壊されるので、全くとんでもない損害だ。さらに米軍兵士がいくら撃っても交戦している相手である地元の兵士(民兵組織?)にさっぱりあたらず、装甲車が助けに来てくれるまでやられっぱなしに近い。最初は冷静だったリーダーのエリック(ウィル・ポールター)は爆弾にやられてひどい脳震盪を起こした後、ケガがないので大丈夫…かと思ったら衝撃の後遺症で自分がいる場所の住所が思い出せなくなったりして指揮がとれなくなり、合流した隊のリーダーであるジェイク(チャールズ・メルトン)に指揮権を譲り渡すし、他の一応、ケガをしなかった兵士たちも脳震盪のせいでだいぶ体力・思考力がヤバそうだ。戦争映画とかスパイ映画で、爆発やら交戦やらで地面にたたきつけられたりした後、ヒーローがすぐに起き上がってちゃんと行動しているというような描写はよくあるが、あの種の描写がいかに現実からかけ離れているかよくわかる。さらにとにかく現場も指揮系統も混乱していて、これは記憶が本当に正しいのかあやしいと思うくらいビックリしたのだが、司令部が装甲車を救出に向かわせる許可を出さないので、現場の兵士のひとりが司令部のフリをして装甲車を出させるなどという「ホント?!」みたいな展開もある。とにかくリアルな戦争映画である。
『長安のライチ』を試写で見た。
長安のしがない役人である李善徳(ダーポン)は、さまざまな部署の責任逃れなどのせいで、何千キロも離れた嶺南から楊貴妃の好物であるライチを運ぶというどう見ても無理そうな仕事を押しつけられる。嶺南でうさんくさい商人の蘇諒(バイクー)やライチ作りの名人である阿僮(ジュアン・ダーフェイ)、貧しい林邑奴(テレンス・ラウ)などと出会い、試行錯誤しながらライチを新鮮なまま長安に運ぶ運搬方法を考案する。ところがうまくいきそうになったところで邪魔が…
楊貴妃が南からライチを運ばせたという有名な話を、運搬するほうの視点から描いた歴史エンタテイメントである。上の部署の権力闘争のせいで振り回され、苦労する李善徳の頑張りが焦点で、あらゆる工夫でライチを長持ちするように保存し、少しでも早く運搬ができるように旅程を短縮し…というふうに涙ぐましいくらい一生懸命工夫をするのだが、この苦労が上のご意向で水の泡になりそうで、頑張りも認めてもらえず…ということで、勤め人の悲哀に溢れたお話だ。一方、私はライチが大好きなので、嶺南で阿僮が心をこめて育てたライチが長安のご意向でかなり無駄になり、ライチ農園が大きな負担を強いられるくだりは見ていてなんとなく悲しかったし、ぜいたくな美味しい果物が長安のご意向でこんなことに…と思うとけっこう見ていてイライラするところもある(それがこの映画の狙いのひとつではあるのだが)。李善徳の妙にドタバタコメディみたいな夫婦仲の描写とか、ライチ運びまわりのちょっと強引な展開とか、ツッコミ所はたくさんあるが、娯楽的な時代劇としては十分面白い作品である。