閉鎖的な島と読む愉しみ~『ガーンジー島の読書会の秘密』

 『ガーンジー島の読書会の秘密』を見てきた。原作小説は既に読んでおり、なかなか面白かった。

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 舞台は第二次世界大戦直後のガーンジー島とロンドンである。ヒロインである作家のジュリエット(リリー・ジェームズ)は次作の調査をしていたが、ひょんなことからガーンジー島の農夫ドーシー(ミキール・ハースマン)からの手紙を受け取ることになる。ドーシーはガーンジー島で読書会を運営しているのだが、物資不足でいい本がなかなか入手できず、島に本を送ってくれそうな人を探すべく、たまたま手に入った古書に入っていた前の持ち主の住所をたよりにジュリエットに連絡してきたのであった。読書会に興味を持ったジュリエットは取材を開始するが、その過程でドイツ軍に占領されたガーンジー島の苦闘と住民たちのつらい記憶が少しずつ明らかになり…

 

 地味であまり新しさはない作品だが、似たような題材でやはり閉鎖的な田舎を舞台にしている『マイ・ブックショップ』なんかよりははるかに話に起伏があり、面白かった。読書会が戦争と占領に苦しむ人々の心に救いを与えたということを生き生きと描いているのがいい。ガーンジー島はかなり閉鎖的なところで、なかなか住民がジュリエットに戦時中のことを話してくれないというまどろっこしさがあるのだが、ジュリエットが粘り強く調査していろいろなことが観客に開示されていく。ベクデル・テストはジュリエットとアメリア(ペネロープ・ウィルトン)やアイソラ(キャサリン・パーキンソン)が読書会や他の女性登場人物について話すところでパスする。

 

 ただ、恋愛のプロットについては、ドーシーを演じるミキール・ハースマンがあまりガーンジー島晴耕雨読の暮らしをしている純朴で本好きな青年には見えない…というところがちょっと雰囲気を削いでいるかなと思った。何しろ『ゲーム・オブ・スローンズ』のダーリオ・ナハーリス役で、ちょっとワイルドでヨーロッパ大陸風の魅力がある色男なので、親友エリザベスの娘を引き取って育てているとにかく穏やかで心の優しい青年というには野性味がありすぎるように思った(あれならジュリエットが子供の父親はドーシーだと思うのも無理ない)。これはブリテン諸島の田舎を舞台にした映画ではたまにあることである(「ピアース・ブロスナンが田舎で商店やってるかぁ?」みたいな…)。

かなり好みでなかった~『ラヴズ・レイバーズ・ロスト-恋の骨折り損-』

 シアタークリエで『ラヴズ・レイバーズ・ロスト-恋の骨折り損-』を見てきた。2013年にニューヨークで初演されたミュージカルの日本版である。

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 話は『恋の骨折り損』なのだが、正直かなり好みでなかった…まず、原作では私がわりと気に行っているジャケネッタまわりの話に変更があり、少々真面目になりすぎている。また、いくつか「ここ、歌いる?」みたいに感じられるところがあった。さらに、上演が始まったばかりだからだとは思うのだが、歌の出来ぐあいにばらつきがあり、とくに最初のほうはかなり歌が堅かったと思う。演出についてもちょっと恋愛ものなのか、男同士で大騒ぎするのが楽しいみたいな芝居なのか、一貫性がないように思えるところがあった。アメリカでやった時はものすごくブロマンスっぽい演出だったらしいのだが、その方向に思い切り振ったほうがいいんじゃないかとも思う。

 ただしいいところはあり、男達がお互いの恋心の表明を立ち聞きするくだりは笑えたし、最後にロザラインがビローンにお願いする内容が原作よりもシンプルにしてあったのはよかった。完全につまらないというわけではないのだが、こういう派手なミュージカルにするんならもうちょっと演出などを工夫したほうが…と思うところがけっこうあった。

MIDWEEK BURLESQUE vol.74 -The Lucky Horror Picture Show-

 「MIDWEEK BURLESQUE vol.74 -The Lucky Horror Picture Show-」を見てきた。もともとは観劇会をするつもりだったのだが予定があわず、結局ひとりで鑑賞した。

 前半はデュオのHyls(Rosa Diamanté + Mummy Bomb)の黒っぽいドレスで統一したちょっとハロウィン風なショーと、新人Dragon Queenの『ライオン・キング』風なショーだった。後半は飯田華子の大人の紙芝居で始まったのだが、これがなかなか衝撃的で、あまりにも下ネタが激しいので万人向けではないと思うのだが、日常的な話あり、人情噺あり、怪談ありで、非常に笑えた。その後はBee TinyTotとViolet Evaのゴージャスなショーだった。

『週刊読書人』9月27日号と『ミステリマガジン』11月号に新刊の書評がのりました

 『週刊読書人』9月27日号と『ミステリマガジン』11月号(p. 210)に書評がのりました。『週刊読書人』のほうはウェブでも公開されています。

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宮沢りえの美しくない瞬間~『死と乙女』(ネタバレあり)

 アリエル・ドーフマン作、小川絵梨子演出『死と乙女』を見てきた。映画化もされている有名な作品で、見るのは今回が初めてである。

 舞台は南米の某国(ドーフマンの出身地であるチリと似ているが、おそらくあえてぼかしてある)、長年の独裁政権が終わり、ジェラルド(堤真一)は大統領から前政権による非人道的な犯罪を調査する委員会の委員に指名されることになる。妻のポーリーナ(宮沢りえ)は反政府運動の際に激しい拷問と性的暴力を受けたためPTSDを患い、今でもフラッシュバックに苦しんでいる。ある日、ジェラルドの車が故障し、助けてくれた医師ロベルト(段田安則)を連れて帰ってくる。ポーリーナは声やにおいから、ロベルトこそ目隠しをつけて自分を拷問した謎の医者だと確信し、ロベルトを監禁して白状させようとする。しかしながらポーリーナは自分を拷問した相手の顔を見たことがなかった。ジェラルドはポーリーナとロベルトの板挟みになり…

 

 ものすごく重いテーマを扱った難しい芝居で、おそらく演出でどちらにも転ぶと思われるのだが、この演出はわりと#MeTooなどに即した現代的な演出にしている。郊外の家の一部屋が舞台なのだが、あまり動きのなさなども感じさせないしっかりしたプロダクションだ。

 

 役者陣は3人とも大変良かったのだが、私が一番感銘を受けたのは宮沢りえ演じるポーリーナが美しく見えない瞬間がけっこうあるということだ。もちろん、いつもの美しい宮沢りえなのだが、こういうトラウマを扱った芝居では、登場人物があまり美しく見えてはいけないような場面がいくつかある。美しいというのは観客をうっとりさせる効果があるが、激しい苦痛や憎悪を描く際には、そうした陶酔の感情が伴うと焦点がぼやけて陰惨さをしっかり描けなくなってしまうからだ。憎悪とか不幸というのはだいたいの場合、美の敵であり、美しいものを美しくなくする効果を持っていて、この手の芝居ではそういうネガティヴな感情の負の力をきちんと表現しなければならない。この芝居のポーリーナはあまりにも残虐な暴力を受けたために常に苦痛を抱えて生きており、いくら夫のジェラルドが優しくしてくれても幸せになりきれない。このプロダクションではポーリーナの苦痛が全く美化されておらず、フラッシュバックに悩むポーリーナの暗い表情や、ロベルトを監禁する時の深刻な表情が不思議と美しくない…というか、明るい顔をしている時の宮沢りえのキラキラした輝きが一切なくなり、どす黒い感情がちょっとした声や顔の様子から読み取れるようになっている。とくにポーリーナが、ロベルトを自分と同じ目にあわせてやりたい、ホウキを尻に突っ込んでやってはどうか、と言うところなど、ポーリーナの爆発的な憎悪がさらっと出てきて、怖すぎて可笑しいみたいな変な効果が出ている。なお、カーテンコールではいつもの美しい宮沢りえに戻っていた。

日本初のWikiGapイベントが無事終了しました

 東京のスウェーデン大使館で行われた日本初のWikiGapイベントが無事終了しました。女性の記事を書くことでウィキペディアジェンダーギャップを減らそうというイベントなのですが、ちょっと珍しいような大規模なエディタソンで、かなりの数の記事ができました。

 とりあえず反省点としては、いくつかミスがあったのと、あとこの規模のエディタソンだと今まで気付かなかったような問題がいろいろ出てくるのがわかりました。まず、各参加者にプロジェクトページにサインアップしてもらい、作っている記事を把握するだけで大変です。また、各記事ができた後に孤立の解消(他記事から新しく立てた記事にリンクすること、ウィキペディアでは必ずしないといけない)をするのがかなり大変だということがあります。今とりあえず目に付くやつは孤立を解消しておきましたが、まだいくつかあります…

ja.wikipedia.org

 既に朝日新聞で報道されました!私他、数名の参加者がコメントしています。

digital.asahi.com

 

シンポジウム「大学におけるウィキペディアの利活用と課題」が無事終了しました

 東京経済大学で開催されたシンポジウム「大学におけるウィキペディアの利活用と課題」が無事終了しました。他のオープンデータ系の催しとかぶりまくってしまったのですが、お越し下さった方々、どうもありがとうございます。いろいろな観点からの発表があり、打ち上げも盛り上がって楽しいシンポジウムになりました。私はちょっと英語入試改革批判みたいな話をしました。実況をtogetterにまとめてあります。

togetter.com