文学座『尺には尺を』

 文学座で『尺には尺を』(通称「尺尺」)を見てきた。セットは大きな白黒の布を使ったわりと簡素なもので、とくに大きくモダナイズなどはしてないと思う。

 けっこうテンポのある演出で最後まで面白く見れたのだが、いくつか演出に疑問点はある。まず、イザベラはかなり分別があって賢明そうな感じに作っているのだが、もう少し若くて世間知らずな感じに作ったほうが、地位を利用してそういうところにつけこむアンジェローのエロおやじぶりが際立っていいのではないだろうかという気もする。アンジェローはなんだか『十三人の刺客』の稲垣吾郎みたいな感じで作ってきていて工夫があると思ったのだが、わりと若作りな気がしてイザベラとの釣り合いに少々疑問がある。エルボーや売春宿のおかみが出てくる場面はもうセッティングや大道具を工夫するとかして設定をわかりやすくし、かつもっとドタバタにしたほうがたるまないのでは…と思った。このあたりの場面は爆笑を誘うように演出しないと本筋に関係なくてたるんでしまうので、わりと難しい。あと、バーナーダインが最後くずれおちるところはどうなのかな…もっとバーナーダインは最後までアホアホ傍若無人にしたほうが問題劇らしくていいのではないだろうか。最後は求婚にイザベラが驚いて無言になったりするので一応、気を付けた演出はしているのだが、全体的にもっと問題劇としての複雑性を押し出してもいいのではないかという気がした。

 あと、この芝居についてはよく言われることだと思うけど、舞台でみるとほんとルーシオはこの芝居で一番、正気な人に見えると思った(エスカラスも右往左往してるだけで正気だが)。享楽的で無分別なだけなので、まあ常人でも行動の動機が推測できる。他の登場人物は皆、正気度がかなり低い。