女性名で執筆活動を行った男性作家をリストしてみた

 アイルランドの作家、フラン・オブライエンの新訳が出るということなのだが、私、最近友人にすすめられるまでこの作家のことを全く知らず、女性だと思って検索したら(これ、なんかキレイな感じの名前なんで私の隠れた性的偏見が活動してしまってケルト美女を想像していた)、オッサンの写真が出てきて、なんとこの方は男性であることがわかった。女性が差別を避けるため男性名で活動するというのはよく聞くが、公職についているのがバレたら困る、女のフリをしたほうが売れるなどの理由で男性作家が女性名を使って書く場合もある。今日はそういう中で有名な例をリストしておきたい。


フラン・オブライエン…本名ブライアン・オノーラン。アイルランドの公務員だったので、本職を隠すため女性名を使っていたらしい。新訳が出るので要注意。


フィオナ・マクラウド…本名ウィリアム・シャープ。両方の名前で著作を書いており、イェーツはマクラウドは認めてたがシャープの作品は好きでなかった(!)そうな。

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ヤスミナ・カドラ…本名ムハマド・ムルセフール。アルジェリアの現役有名作家。これも検閲を避けるためこういうペンネームにしたらしい。

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・18世紀の娼婦回想録モノの作家たち
 これは特殊な例だが、18世紀には娼婦の回想録と呼ばれるものがけっこう出版されていた。実際にいたのかいなかったのかもわからないような娼婦の回想録から、ファニー・マリィみたいな実在の有名な高級娼婦の自伝だと称するものまでいろいろある。早い話がポルノグラフィなわけだが、そういうものは「娼婦が書いた」として宣伝されているけれども実際は男性作家が娼婦のフリをして書いたものであることがかなり多かったと推測されている。ヤバい出版物であるので作家の身元が割れてない場合のほうが多いのだが、かなりのものは男性作家によって書かれたと推測されている。そこそこ教養のあるオッサンが美女のフリをして大嘘のエロばなしを語るというなんだかいやらしいジャンルだが、いつの時代でも「美女が性生活を赤裸々告白!」みたいなゲスい宣伝方式のほうが売れたのだろう。

参考文献:Alistaire Tallent, 'Listening to the Prostitute's Body: Subjectivity and Subversion in the Erotic Memoir Novels of Eighteenth-Century France', Proceedings of the Western Society of French History, 33 (2005):211-23 (pdf無料)

ポルノグラフィの発明―猥褻と近代の起源、一五〇〇年から一八〇〇年へ
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ベンジャミン・フランクリン
 寡婦Silence Dogoodをはじめとして男女多数の筆名を使い分けていたらしい。こちらのイリノイ大学で公開されてる論文も参照。


少女探偵ナンシー・ドルーの著者たち
 このシリーズはキャロリン・キーン名義で刊行されているが、ご長寿シリーズなのもあって男女含めて多数の人が著者となっている。多人数でひとつの筆名を共有しているのに近い。


ジェニファー・ワイルド…本名トム・E・ハフ。女性名でロマンス小説を執筆しているらしい。


紀貫之 まあ、言うまでもなかろう。

 この他にもかなりたくさんいるのだが、理由としては既に業績があってそれと同一人物だと思われたくなかったとか、女性向けのものを書くので女性名のほうが好都合だとか、いろいろあるようだ。