暴力犯罪映画からメタなジョークと露悪へ~『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』(ネタバレあり)

 ウィル・グラック監督『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』を見てきた。

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 前作に続き湖水地方が舞台である。トーマス・マグレガー(ドーナル・グリーソン)はビー(ローズ・バーン)と結婚し、ウサギたちの父代わりになろうと努力するが、相変わらずピーター(ジェームズ・コーデン)とはうまくいかない。ピーターは何をしても自分のせいにされ、みんなにワル扱いされているということでヘソを曲げてしまう。ビーがトーマスとウサギたちを連れて出版業者ナイジェル・バジル=ジョーンズ(デヴィッド・オイェロウォ)に会いに行った際(これはグロスターに会いに行ったのだと思うのだが、なんか描き方が微妙でロンドンとの混同を招くような…)、ピーターは父の友達だったというバーナバス(レニー・ジェームズ)に会い、泥棒の計画に誘われる。ワルになることに決めたピーターはきょうだいのフロプシー(マーゴット・ロビー)、モプシー(エリザベス・デビッキ)、カトンテール(デイジー・リドリー)やいとこのベンジャミン(コリン・ムーディー)などみんなを誘って、グロスターのファーマーズマーケットを襲撃してドライフルーツを頂く計画を立てるが…

 前半は悪徳ペットショップやドラッグ(お砂糖たっぷりの魔法キャンディ)まみれの暴力犯罪映画、終盤はこの映画が完全に商業化され、原作から離れたセルアウト感あふれる映画だということを露悪的にジョークにしたメタな展開である。もふもふの可愛いウサギが出てくる作品にしてはえらく毒々しく、正直見ていてちょっと戸惑ってしまうくらい攻めた内容だ。何しろ『小悪魔はなぜモテる?!』のグラック監督なので明らかにわかってやっていると思われる。メタな映画として見ると面白いのだが、子供向けの映画としては大変皮肉な内容である。

 細かいところでけっこう面白いところがある。同性愛に関する嫌みのないマイルドなジョークあるのは良いのではないかと思った。ピーターが街で恋でもしたのではと思ったベンジャミンがガールフレンドの名前を尋ねたところ、ピーターが「バーナバス」と答え、ベンジャミンが全く驚かずにボーイフレンドができたのだと勘違いして「いいね」と返すあたり、ベンジャミンは最近の若者らしくその程度のことでは全くビックリしない開けた考え方の持ち主で信用できる(さすがに泥棒だと言われた時はやめたほうがいいと言っていたし、そもそもおおもとが勘違いでピーターは恋をしているのではなく泥棒一味に入ろうとしているのだが)。また、実は食わせ者のナイジェルがかなりハンサムでとても綺麗な瞳をしており、トーマスがナイジェルの瞳を見てうっかり騙されそうになってしまうあたりもちょっと性的指向にかかわるジョークだと思うが、イヤな感じがしなくて笑える。

 なお、ナイジェルは昔なら長身の白人男性が演じるようなポッシュでハンサムでイヤな奴の役柄なのだが、ナイジェリア系の黒人男性であるデヴィッド・オイェロウォが演じている。オイェロウォはナイジェリアの地方の王族出身で地元では王子であり(ナイジェリアは地方に王家がたくさんあるので王族もいっぱいいるらしいのだが)、これまでロイヤル・シェイクスピア・カンパニーシェイクスピア劇の王様役やオーディオブックの007の声など、そうそうたる役柄をこなしてきた俳優である。昔ならもっぱら白人があてられていた「上流・アッパーミドルのハンサムでイヤな奴」に完全にハマる黒人俳優がイギリスには出てきてるいるということで、それは非常に喜ばしいことだと思う。途中で養護施設育ちの苦労人であるトーマスがバジル=ジョーンズという名前をバカにするところがあるのだが、こういうハイフンのついた名前はイギリスではかなり「良家」感があるので、たぶんトーマスはそこに反感を抱いているのだろうと思う。

 声の出演が相変わらず豪華である。やたらと大活躍するティギーのおばさんはシーアだし(これは前作もそうだったが今回は大活躍だ)、ストリートミュージシャンをやってるリスはティム・ミンチンだ。ピーターがグリーンデイの"Boulevard of Broken Dreams"をバックに歩くところなどでリスが歌を披露してくれる。