猫好き画家の電気生活~『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』(試写、ネタバレ注意)

 ウィル・シャープ監督『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』を試写で見た。

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 ヴィクトリア朝末期から20世紀初めにかけて猫の絵で有名だった画家ルイス・ウェインの伝記映画である。ルイス(ベネディクト・カンバーバッチ)は風変わりな性格の青年で、女ばかりの家族を養うべく、イラストをはじめとするいろいろなことに手を出していたが、なかなかうまくいっていなかった。しかしながら年上で階級も低い家庭教師のエミリー(クレア・フォイ)と恋に落ち、周りの反対を押し切って結婚する。愛し合う2人だったが、エミリーがガンであることがわかる。2人で猫を飼い、エミリーの余生を一緒に過ごすことにするが、ここでウェインの猫を題材にした絵が大当たりする。エミリーは亡くなってしまうが、ウェインはエミリーと猫への愛情を胸に絵を描き続けるものの、それまでもあったエキセントリックなところがどんどんひどくなり、妄想が激しくなって心の病が悪化してしまう。

 日本語タイトルは『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』なのだが、英語タイトルはThe Electrical Life of Louis Wainルイス・ウェインの電気生活)である。ルイスはもともと電気に対するいろいろな思い込み…というか、未来は電気の時代になるという考えがあり、かなりエキセントリックでその後の妄想につながっていくような電気観を持っていることが冒頭のほうで既に示されている。この電気に対する異常なこだわりはルイス自身の心の病に関係してくるものである一方、おそらくルイス自身の絶え間なく湧いてくる火花みたいな芸術的エネルギーとも不可分で、ルイスにとっては危険でもあり必要なものでもある。そういう電気に貫かれたルイスの生活と心情を表現するため、全編にいろいろ電子音っぽい楽器が使われており(作曲者は監督のきょうだいであるアーサー・シャープである)、とくにテルミンがかなり際立った形で使われている。テルミンの電気的である一方でほにゃーっとした音が、せわしない一方で優しさもあるルイスの発想のあり方とよく合致しており、ちょっとスチームパンクっぽく、サイケデリックなのに温かみもあって不思議な魅力がある。このテルミンの使い方にはけっこう感心した。