投票してももみ消される観客参加型演劇~『リア王~スマホVSリア王~』

 シアター風姿花伝木村龍之介演出『リア王スマホVSリア王~』を見てきた。タイトルからわかるように、スマートフォンをonにして見る演劇である。LINEのオープンチャットで登場人物の投稿を見たり、投票をしたりすることができる。舞台の中央にモニタが設置されており、そこにいろいろ観客向けの指示が出て、時々写真がとれるタイミングもある。

 セットは聖鰤天病院なる病院である。登場人物の多くは入院中みたいな格好で、奥にはシートで囲まれた禍々しい手術室風な閉鎖空間があり、グロスター(矢嶋俊作)の目がえぐられるところなどはそこであまりお客から見えない状態で演じられる。リア(栗田芳宏)の娘たちが椅子に座ってスマートフォンでLINEをしているところは全く病院の待合室だ。

 けっこうちゃんと『リア王』をやりつつ、序盤はLINEを使った情報のやりとりにお客さんも参加できる。このプロダクションでは通常の上演とちょっと順番を変え、最初に王国割譲の場面を持ってきてその後にグロスターがエドマンド(天野翔太)にひどいことを言う…という順番でやっている(ふつうは逆だと思う)。王国割譲の場面では分割されたブリテンの地図をLINEで配信してもらえる。次の場面はグロスターがとんでもないLINE(写真までついている)を送ってエドマンドが非常に動揺するという演出になっている。私はかねがねグロスターのエドマンドに対する態度はひどすぎるので息子がグレるのには理由があると思っていたのだが、こんなひどいLINEを送られたらエドマンドがどう考えても父親を憎むようになるだろうだと思った。途中で観客投票もあるのだが、投票結果をコーンウォール(越川みつお)たちが握りつぶしてしまうという(なぜか時間がちょっと戻る)、不正なリアリティショーみたいな演出もある。

 終盤はけっこう正統派の緊張感ある『リア王』になってあまりスマートフォンの出番がなくなり、あんまりスマートフォン演出が機能しないのでは…と思っていると、最後の最後にスマートフォンが象徴的に壊され、中央モニタに鏡みたいに割れる画像がうつるという終わり方になっている。これはここまでいんちきリアリティショーみたいに芝居を見ていた観客に挑戦し、しょっちゅうLINEをやっててもコミュニケーション不全な現代人を諷刺する演出だと思った。鏡みたいに画面が割れる演出はちょっと『リチャード2世』を思わせるところもあり(週末にちょうどこれについての学会発表をする)、興味深いと思った。あと、こういうふうにスマートフォンを使って観客参加で…というなら『恋の骨折り損』とかがけっこう向いているのではという気もした。